近時、「拘禁刑」創設による懲役と禁錮の一本化の法改正が動き出しました。
刑の種類について理解を深める良い機会ですので、今回は我が国の規定する刑事罰の種類や執行猶予などについて、代表弁護士・中村勉が説明いたします。
禁錮刑・懲役刑とは
禁錮とは、受刑者を刑事施設に拘置する刑をいいます(刑法13条)。また、懲役とは、受刑者を刑事施設内で拘置して所定の作業を行わせる刑をいいます(刑法12条)。禁錮も懲役も身体の自由を拘束する、いわゆる自由刑の一種です。もっとも、懲役は、所定の作業(刑務作業)が義務付けられているのに対し、禁錮は同作業を強制されることはありません。
第十二条(懲役)
懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
第十三条(禁錮)
禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。
2 禁錮は、刑事施設に拘置する。
禁錮や懲役などの刑事罰の重さの順番
刑事罰の種類は法律に定められています(刑法9条)。列挙すると、主刑として死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料があります。主刑に付加してのみ科し得る付加刑としては、没収があります。これらの刑の軽重も、法律に定められています(刑法10条)。
第九条(刑の種類)
死刑、懲役、禁錮(こ)、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
第十条(刑の軽重)
主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
2 同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。
3 二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。
刑事事件の罰則の目的
刑罰は、犯行を行ったものに対して科される制裁です。刑罰の目的は、刑事法学上、犯罪に対する応報であるとする応報刑論と、将来の犯罪抑止にあるとする教育刑論との対立を始めとして、長年にわたり議論の蓄積が存在します。
応報刑論は、いわゆる、古代バビロニアのハムラビ法典にある「目には目を、歯には歯を」に代表される考え方で、犯罪に対してはその責任に応じた苦痛を与えるべきであるというものです。
もっとも、このような応報的な考えのみでは、一度犯罪をした者の更生が困難となり、再び犯罪に及んでしまうおそれがありますので、二度犯罪をしないという教育という視点も不可欠であるといえます。
有期刑と無期刑の違い
懲役・禁錮については、無期及び有期の場合があります。有期刑は1月以上20年以下とされています(刑法12条1項、13条1項)。ただし、有期の懲役、禁錮を加重する場合には30年まで、減軽する場合には1月未満に下げることができます(刑法14条)。
これに対し、無期刑とは、その名の通り、期限の限定の無い懲役刑を言います(刑法12条)。期限がないとは、原則として、受刑者が死亡するまで懲役刑を科すという内容です。
なお、有期刑・無期刑のいずれにも仮釈放制度がありますが、有期刑については刑期の3分の1を経過して認められる一方、無期刑については最低10年を経過しなければ認められないことと定められています(刑法28条)。
第十四条(有期の懲役及び禁錮の加減の限度)
死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を三十年とする。
2 有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。
第二十八条(仮釈放)
懲役又は禁錮に処せられた者に改悛(しゆん)の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
禁錮刑・懲役刑の一本化
今後3年程度は上記のような禁錮刑・懲役刑が適用されますが、2022年6月13日、これらを一本化して「拘禁刑」を創設する改正刑法が参議院本会議で可決しました。法制審議会の配布資料によれば、「新自由刑(拘禁刑)は、刑事施設に拘置して、作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行うものとする」とされています。
この「その他矯正に必要な処遇」という部分がポイントで、改善指導等の各種指導を含むものとして想定されています。現行法の下でも、各種指導は行われていますが、懲役刑については、先ほど示したとおり、「作業を行わせる」と規定しており、一定の時間を作業に割かなければならないことから、各受刑者の特性に応じた柔軟な処遇を行うことには限界があるとの指摘がなされています。
作業については、規則正しい勤労生活を維持させ、社会生活に適応する能力の育成を図り、勤労意欲を高め、職業上有用な知識や技能を習得させるなどの機能があり、改善更生及び再犯防止の観点からも重要な処遇方法であるとされており、その必要性自体は維持されています。
しかし、各受刑者の特性に応じた処遇という観点からは、例えば学力の不足により社会生活に支障がある者など教育等を十全に行うべき若年者に対しては、必ずしも一律にこれを行わせるのではなく、作業を大幅に減らし、又は作業をさせずに、改善指導や教科指導を行うなど、個々の事情に応じて、柔軟な処遇を行うことも可能とすべきであるとの指摘がなされています。
また、作業義務に縛られず柔軟な処遇が可能となることで、高齢受刑者への福祉支援や若年受刑者の学力向上につながる指導などにも力を入れることができると期待されています。
執行猶予とは
裁判において刑を言い渡すにあたり、情状によって、一定の期間その執行を猶予する判決のことを執行猶予判決と言います。情状とは、犯情が軽微であることや、被告人に反省の念があることが明らかであること、被害に対して弁償がなされていること、被害者が被告人を許していること、家族や近しい友人が被告人を今後保護監督することなど、事件により様々な状況を指します。
執行猶予がつく可能性のある人や罪とは
執行猶予が付されるためには、上記の情状が良いことに加えて、下記の要件を満たす必要があります。
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない場合、または、
- 前に禁錮刑以上の計に書生られたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない場合
現在の裁判例では、前刑の執行猶予を終わった日から10年以上を経過すれば、再度の執行猶予が付される可能性が高まると言うことができます。もし執行猶予期間中に有罪判決を受けたとしても、現行法は、「その刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、状に特に酌量すべきものがあるとき」であり、かつ、保護観察中ではないときという厳しい要件の下で再度の執行猶予を認めています。
ただし、2022年6月13日、参議院本会議で改正刑法が可決され、この再度の執行猶予の要件が緩和されることとなりました。改正法では、再犯防止の観点から、裁判所が個別の事案に応じた処分を出せるよう、保護観察中に再び罪を犯した場合でも執行猶予を付けることができるようにするとともに、再度の執行猶予を付けることができる再犯の量刑を1年以下から2年以下に引き上げられることになりました。
第二十五条(刑の全部の執行猶予)
次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
執行猶予を目指す方法
執行猶予を獲得するために必要な条件は、事件の事案により異なります。被害者がおられるケースであれば、まず示談の成立を目指しますし、被告人が真に反省し更生の様子を示すような具体的事情があれば可能な限り裁判所に示します。ご家族などが今後監督を誓約できるのであればご家族様に証人として証言台に立っていただくこともお願いさせていただきます。
禁錮刑や懲役刑にならないためには弁護士に相談を
執行猶予の獲得や、少しでも量刑を軽くするためには、その事件にとりどのようなポイントが減軽の鍵となるのか、早期に検討し、早い段階から示談等に着手する必要があります。そのような分析や具体策の検討は、刑事事件に強い弁護士事務所が得意とするところであり、専門的知見に基づき的確にアドバイスすることができます。執行猶予の獲得、量刑の減刑を目指す場合には、お早めに弁護士へご相談ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。普段聞きなれない言葉もあったかもしれませんが、刑事罰が国民の自由などを奪う重大な不利益を科すものであるからこそ、詳細の規定まで法律等で定められていることがお分かりいただけたかと思います。
もっとも、現実の具体的な事案の中で執行猶予や刑の減軽を目指すことができるかは、事案や証拠状況によりますので、弁護士にご相談することをおすすめいたします。
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