強盗罪とは、暴行又は脅迫により、被害者の意思に反してその財物(金品)を奪う(236条1項「1項強盗」)か、 財物でなく財産上不法の利益(サービス、債権その他形に残らない便益)を得る(236条2項「2項強盗」)行為です。以下、弁護士・中村勉が解説いたします。
強盗罪における暴行・脅迫とは
強盗罪における暴行・脅迫は、被害者の意思を制圧するに足りる程度、つまり人の反抗を抑圧する程度の強い態様で行う必要があります。なので、昼間人通りの多い街中で人の体を軽く押す程度の暴行では、強盗罪における暴行に該当しない可能性があります。
例えば、スリが内ポケットの財布をとるために被害者の体を押すなどする程度では、強盗罪でなく窃盗罪が成立すると考えられます。
なお、反抗抑圧の程度の判断は、被害者の主観でなく、社会通念上一般に人の反抗を抑圧するに足りるものか否かで決せられますので、一般人なら反抗が抑圧される程度の暴行又は脅迫を加えたものの、被害者がたまたま強靱な心身の持ち主で、全く反抗が抑圧されなかった場合でも、強盗罪における暴行・脅迫に当たります。その判断は、暴行・脅迫そのものの態様・強度だけでなく、犯行の場所・時刻、周囲の状況、被害者の性別・体格等をも総合的に考慮して具体的になされます。
この暴行・脅迫は、財物奪取又は財産上不法な利益獲得に向けて行われる必要があります。すなわち、財物奪取の意思なく暴行又は脅迫をした後に、たまたまその被害者が落とした財布を見つけてこれを持ち去ったような場合は、暴行罪又は脅迫罪のほか窃盗罪が成立することはあっても、強盗罪には該当しないと考えられます。ただし、暴行又は脅迫の最中に財物奪取等の犯意が生じていた場合は、強盗罪が成立する余地があります。
以下に強盗罪に関する刑法の条文を挙げておきます。
刑法第236条(強盗=1項強盗、2項強盗)
1 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
刑法第237条(強盗予備)
強盗の罪を犯す目的で、その予備をした者は、2年以上の懲役に処する。
刑法第238条(事後強盗)
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
刑法第239条(昏睡強盗)
人を昏酔させてその財物を盗取した者は、強盗として論ずる。
刑法第240条(強盗致死傷)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
強盗罪と類似罪名との違い
強盗罪と強盗未遂罪
強盗の実行に着手したがその目的を達しなかった場合が、強盗未遂罪です。財物奪取等の目的で被害者の反抗を抑圧する程度の暴行又は脅迫を加えた時点で強盗罪の実行の着手が認められますので、その後に財物奪取等そのものに着手しなくても、強盗未遂罪が成立し得ます。
逆に、強盗をする意思でまず財物を奪取した場合でも、被害者の反抗を抑圧する程度の暴行又は脅迫がなされない限り、強盗罪の実行の着手は認められません。ただし、被害者の反抗を抑圧するための凶器を携帯していた場合などは、強盗予備罪等に問われる可能性があります。
強盗罪と恐喝罪(刑法第249条)の違い
暴行又は脅迫を用いて財物を奪取し、あるいは財産上不法の利益を得る点では共通しますが、恐喝罪は、暴行・脅迫の程度が、被害者を畏怖させるにとどまり、被害者の反抗を抑圧するに至らない程度だった場合に成立します。
強盗罪と窃盗罪の違い
人の財物を奪取する犯罪である点では共通しますが、窃盗罪は、暴行又は脅迫をその手段をしない点で強盗罪と異なります。なお、強盗罪においては、被害者の反抗を抑圧するに足りる暴行又は脅迫を加えて財物を奪取した場合だけでなく、財産上不法の利益を得た場合も(2項)強盗罪に問われますが、窃盗罪には財産上不法の利益を得た場合を処罰する条文はありません。
強盗事件の弁護活動
上記のように、強盗罪は他の罪と比べても重い(特に、強盗致死罪ないし強盗殺人罪の法定刑は、死刑と無期懲役だけという重いものになっています。)ので、強盗罪を犯したと疑うに足りる相当な理由が存在すると判断されれば、基本的には逮捕の上、10日間の勾留を受ける可能性が高く、その勾留も延長される傾向があります。
一方で、例えば、暴行又は脅迫により財物を奪取したこと自体は間違いなく、強盗罪により逮捕等がなされた場合でも、暴行・脅迫の態様・強度により、検察官の終局処分や裁判所の判決が、恐喝罪、又は窃盗罪及び暴行罪に落ちることはあり得ます。先ほど述べたとおり、強盗罪における暴行・脅迫の程度は、人の犯行を抑圧する程度という相当に強度なものが必要とされているため、それに至らない程度の暴行・脅迫であれば、強盗罪に該当しないと判断されるからです。そのような場合などには、同居の親族等による身元引受書等を用意することにより、早期に身柄解放がなされることもあり得ます。
強盗罪の弁護活動としては、本人の話をよく聞くのはもとより、現場の状況、犯行に至る経緯その他強盗罪の成否等にかかわる諸事情について調査した上、強盗罪が成立することを前提とするのか否かを判断し、その判断に基づいて、取調べ、示談等にどう対応するかなどの弁護方針を策定する必要があります。
そして、強盗罪が成立することを前提とする場合、まずは早期に被害者と示談をすることを考えるべきでしょう。
強盗罪は重罪であり、被害者は財産的損害だけでなく心身にも損害を受けているので厳しい処分が予想されますが、捜査段階で心身の損害も含めた示談が成立し、被害者から宥恕(事件について犯人を許すという被害者の意思表示)が得られれば、不起訴となる可能性もあります。
ちなみに、暴行・脅迫の態様・強度はともかく財物を奪取し、財産上不法な利益を得たことは間違いない場合も、被害者には財産的被害が生じている訳ですから、その点の示談を試みるべきであることは同様です。
仮に、起訴されてしまった場合でも、示談の成否は量刑や執行猶予が付くか否かの判断においては極めて重要ですから、捜査段階において、示談不成立のまま公判に至った場合でも、示談交渉の重要性は変わりません。
勿論、実際には強盗をしていないのに、起訴されてしまった場合には、無罪獲得を目指した弁護活動を行います。
強盗罪で逮捕されると必ず起訴されるのか
上記のとおり、強盗罪は相当な重罪ですから、事案として強盗が成立し、その証拠が十分である場合は、逮捕・勾留の上起訴に至ることが多いと考えられます。
しかしながら、暴行・脅迫の程度が被害者の反抗を抑圧するに至らない程度だった場合やそれを認定する証拠が不十分な場合は、強盗罪が成立せず、恐喝罪や、窃盗罪及び暴行罪又は脅迫罪に罪名が落ち、自ずと処分が軽くなることもありますし、事案として強盗罪が成立し、証拠も十分である事案でも、その態様、犯行に至る事情、被害者が傷害等を負っているか否か、財産的損害の多寡、示談の成否、社会的影響等の諸事情により、不起訴を狙える可能性がなくはありません。
弁護人としては、本当に強盗が成立する事案なのか、証拠は十分か、不起訴を狙える事情はないかなどを詳細に検討し、迅速かつ適切な弁護活動を実施していくことになりましょう。
強盗罪の判例
甲府地方裁判所平成26年8月7日
被告人は、金品窃取の目的で、被害者宅に窓から侵入し、金品を物色していたところ、被害者が目を覚ましたため、金品を強取することを決意し、同人にカッターのような刃物を突きつけ、脅迫し、強取しようとした。しかし、被害者の反抗を抑圧するに至らず抵抗されたため、殺意をもって、同人の頸部を締め付け、窒息死させた事案。
被告人の犯行は、身勝手で短絡的であり、犯行の経緯や動機に同情すべき点はない。被害者遺族の悲しみは計り知れないものである上、被告人は強盗罪を含めた多数の前科があり、犯罪性向が進んでいた。被告人が自ら犯行を告白したことを考慮したとしても事件の重大性があまりに大きく、減軽の余地はないとして無期懲役刑に処した事例。
福岡高等裁判所平成24年10月4日
被告人は、CDアルバム及び発砲酒等を窃取し、警備員に取り押さえられたところ、所持していた包丁で警備員に傷害を負わせ逃走し、さらに通路上にいた歩行者に対しても包丁を突きつけ暴行を加えて傷害を負わせたものであるとして、強盗致傷罪で起訴され一審において懲役9年の言い渡しを受けた。これに対し被告人が法令適用の誤り及び量刑不当を理由に控訴した。
福岡高裁は、被告人の窃盗後においてはいまだ逮捕されうる状況が継続していたのであるから、被告人のなした暴行は窃盗の機会の継続中になされたものであるとして強盗致傷罪の成立を認めた原判決は正当であるとした。また、量刑不当の主張については、短時間で窃盗を2回も繰り返していることや被害者らの負った傷害の程度、被害金額も1万4000円と少なくないことに鑑みると不当なものではないとして、被告人の控訴を棄却した。
津地方裁判所平成24年7月13日
被告人は、出所後に草刈り作業員として働いていたが持病の痛風が悪化して働けなくなり、生活保護も受けられなかったことから自暴自棄になり、包丁をもってなにか大きな事件を起こしてやろうと考え、ジャンパーの裏に包丁を隠し持ち、スーパーマーケットにおいて寿司パックなど4点を盗もうとし、被告人が寿司パック等を盗んだところを同店の副店長2名に取り押さえられバックヤードに連行されたところ、隠し持っていた包丁を振り下ろし、副店長の一人に加療二ヶ月を要する傷害を負わせ、もう一人の副店長に対し包丁を振り上げ「殺してやる。」など怒号をあげて脅迫したという事案。
裁判所は、被告人は被害者らがすぐ側に立っていることを認識しながら、狭い場所で、刃体15センチメートルもの包丁を迷うことなく振り下ろしたものであって、一歩間違えばより重大な結果が発生していた可能性も否定できない相当に危険で悪質な犯行であるとした。また、被告人が犯行に至った経緯や動機について見ても、被告人は一度仕事を見つけ、アパートに入居できるよう手配してくれた勤務先の人や知人等の手助けがあったにも拘わらず、被告人はその幸運を十分に自覚することなく年金が受給できるかといった確認もせずに安易に犯罪に走ったのであるから、酌むべき点はないとして、被告人に懲役7年を言い渡した。
まとめ
これまで強盗罪について説明してきました。いかがでしたでしょうか。強盗罪は重い犯罪です。その嫌疑をかけられてしまった場合や、逆に被害にあってしまった場合などには、是非いち早く弁護士に相談してください。
今すぐ無料相談のお電話を
当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
- 逮捕されるのだろうか
- いつ逮捕されるのだろうか
- 何日間拘束されるのだろうか
- 会社を解雇されるのだろうか
- 国家資格は剥奪されるのだろうか
- 実名報道されるのだろうか
- 家族には知られるのだろうか
- 何年くらいの刑になるのだろうか
- 不起訴にはならないのだろうか
- 前科はついてしまうのだろうか
上記のような悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。