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強制わいせつ致死傷、強制性交等致死傷

強制わいせつ致死傷罪と強制性交等致死傷罪は、それぞれ、「強制わいせつ」や「強制性交等」を行うことによって、被害者を死亡させたり、傷害を負わせたりする犯罪です。

まずは、「強制わいせつ」や「強制性交等」とは何かを解説し、その上で強制わいせつ致死傷罪、強制性交等致死傷罪について代表弁護士・中村勉が解説します。

わいせつ・強制性交等に関する罪の種類

刑法に規定されている性犯罪には、大きく分けて「わいせつ」に関する罪と、「強制性交等」に関する罪の2種類があります。「わいせつ」に関する罪として、強制わいせつ罪(176条)、準強制わいせつ罪(178条1項)、監護者わいせつ罪(179条1項)、強制わいせつ致死傷罪(181条1項)があります。

一方、「強制性交等」に関する罪として、強制性交等罪(177条)、準強制性交等罪(178条2項)、監護者性交等罪(179条2項)、強制性交等致死傷罪(181条2項)があります。なお、176条から179条までの罪の未遂罪は180条に規定されています。「わいせつ」な行為とは、被害者の性的羞恥心を害する行為をいい、例えば、相手の同意なくキスをしたり、胸や陰部に手を触れたりする行為がこれに当たります。これに対して「強制わいせつ」とは、わいせつな行為を暴行又は脅迫という手段で行うものをいいます。

刑法第176条(強制わいせつ)
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

ちなみに、「公然わいせつ」と「強制わいせつ」は異なります。「公然わいせつ」(刑法174条)は、不特定又は多数の者に対して、わいせつな行為(陰部の露出等)をすることをいいます。一方で、「強制性交等」とは、暴行または脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交をする行為を言います。

かつては「強姦」と呼ばれ、男性(主体)が女性(客体)に行うことを想定されていましたが、平成29年の法改正によって、主体も客体も男女の別を問わず、さらに肛門性交や口腔性交も含めた「強制性交等」に変更されました。男性が被害者となった事件も、実際に発生しています。

刑法第177条(強制性交等)
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

13歳以上の客体に対しては、暴行又は脅迫を用いることと、合意がないことが、強制わいせつ罪及び強制性交等罪が成立する要件ですが、13歳未満の客体に対しては、手段や同意の有無を問わず、「わいせつな行為」や「性交等」を行った場合、これらの罪が成立します。13歳未満の者は、これらの行為を行うかどうかについての判断能力が十分にないため、絶対的な保護が与えられているのです。なお、相手方の同意があり、13歳未満の者を13歳以上であると誤信して、暴行・脅迫によらずにこれらの行為を行った場合には、故意がないためこれらの罪は成立しません。

また、心神喪失(精神又は意識の障害によって、正常な判断能力を喪失している状態)もしくは抗拒不能(物理的・心理的に抵抗することが著しく困難な状態)に乗じ、又は心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、強制わいせつ行為、強制性交等を行うのが、準強制わいせつ罪および準強制性交等罪です。強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪、強制性交等罪と準強制性交等罪の法定刑はそれぞれ同じです。

さらに、監護者の立場を利用して、18歳未満の者に対して強制わいせつ行為、強制性交等を行うのが監護者わいせつ罪および監護者性交等罪です。監護者の典型例は親ですが、法律上の監護権者でなくとも、事実上18歳未満の者を監督し、保護する関係にあれば足りると考えられています。

強制わいせつ・強制性交等致死傷罪とは

さて、強制わいせつ罪、強制性交等罪、準強制わいせつ罪、準強制性交等罪、監護者わいせつ罪、監護者性交等罪、もしくはこれらの未遂罪を犯して、被害者を死傷させたときの罪が、強制わいせつ致死傷罪および強制性交等致死傷罪です。

刑法181条(強制わいせつ等致死傷)
1 第百七十六条、第百七十八条第一項若しくは第百七十九条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 第百七十七条、第百七十八条第二項若しくは第百七十九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。

法定刑は強制わいせつ致死傷罪が無期又は3年以上の懲役、強制性交等致死傷罪が無期又は6年以上の懲役となっています。

どのような行為が強制わいせつ・強制性交等致死傷罪に当たるのか

強制わいせつ行為や、強制性交等の行為それ自体が死亡や傷害という結果につながった場合(例えば、膣壁裂傷や肛門裂傷など)、強制わいせつ・強制性交等致死傷罪に該当するのは当然です。加えて、判例は、わいせつ・性交等に随伴する行為についても、強制わいせつ・強制性交等致死傷罪に該当するとしています。

ここで判例を1つ紹介しましょう。加害者は、深夜、睡眠中の被害者宅に侵入してわいせつな行為を行ったものの、被害者が目覚めて加害者に反抗したところ、わいせつな行為を行う気をなくしてしまいました。そこで加害者は、逃走するために被害者を引きずるなどして怪我を負わせました。本件では、加害者の暴行は準強制わいせつ行為に随伴するものと言えるとして、強制わいせつ致死傷罪が成立するとの判決が言い渡されました(最決平成20年1月22日)。なお、被害者は睡眠中だったので抗拒不能であったといえ、加害者によるわいせつな行為は「準強制わいせつ行為」に当たります。準強制わいせつ行為によって被害者を死傷させた場合にも、強制わいせつ致死傷罪が成立します。

その他、被害者が強姦(現在の強制性交等)された後、加害者から逃げる際に転倒して傷害を受けたときにも強姦致傷罪(現在の強制性交等致死傷罪)の成立を認めた判例もあります(最判昭和46年9月22日)。また、判例は、軽度の傷害(例えば、塗り薬を1回付けただけで直る程度の軽度の障害)であっても、本罪の成立を認めています(最判昭和24年7月26日)。

さらに、強制わいせつや強制性交等の被害者に生じたPTSD(心的外傷後ストレス症候群)についても、強制わいせつ致傷罪および強制性交等致傷罪が認められるかについては争いがあり、未だ最高裁は判断を下していません。しかし、下級審では傷害罪(刑法204条)の成立を認めた例(富山地判平成13年4月19日)があります。一方で、暴行の範囲内であるとして傷害罪の成立を否定した例(福岡高判平成12年5月9日)もあります。

近年の重罰化傾向

前述のとおり、平成29年度の法改正で強姦罪は強制性交等罪に名前が変わり、姦淫だけでなく肛門性交や口腔性交などが加わりましたが、同時に、法定刑も「3年以上の有期懲役」から「5年以上の有期懲役」に変わり、重罰化しています。また、強制性交等致死傷罪も、かつての強姦致死傷罪の「無期又は5年以上の懲役」から「無期又は6年以上の懲役」に変わっています。これらは法定刑のレベルの話ですが、裁判で実際に下される刑も、年々重くなっています。

つい最近の例では、2010年から2017年にかけて、一人暮らしの女性を狙って15件の性的暴行を行ったとして、強姦致傷罪などに問われ(起訴当時は刑法改正前だったため、強制性交等致傷罪ではなく強姦致傷罪となっています)、2018年11月13日に津地裁で無期懲役判決が出ました。強姦致傷罪の裁判員裁判で無期懲役判決が下されるのは、初めてのことです。
なお、強制性交等罪の懲役刑の下限が5年となったことにより、酌量減軽(刑法66条)がなされない限り、本罪には執行猶予が付かなくなりました。初度の執行猶予は、3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金が言い渡された場合に、適用される可能性があるからです(刑法25条1項)。

刑法25条(刑の全部の執行猶予)
次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

刑法66条(酌量減軽)
犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。

性犯罪は被害者に多大な精神的ダメージを与えるものであり、社会的にも非難の対象となっているため、酌量減軽を得ることは困難です。しかしながら、後述の通り、被害者への謝罪や賠償金の支払いなどを行うことによって、減刑が認められるケースもあります。

強制わいせつ・強制性交等罪等の性犯罪で逮捕されたら

強制わいせつ・強制性交等罪等の性犯罪で逮捕された場合、弁護士のアドバイスの下で早期に被害者に謝罪すると共に、示談・賠償することが重要です。被害者との示談が成立しなければ、不起訴処分の獲得は大変厳しいものになるでしょう。

ときに被害者は、加害者と顔を合わせたくないとして謝罪を拒否することがあります。その場合には、弁護士が被害者との示談交渉を試みる必要があります。また、謝罪したくても被害者の名前や住所、連絡先がわからない場合もあります。被害者に関するこれらの情報を警察や検察は持っていますが、被害者保護の観点から、弁護士にしか教えてくれません。よって、弁護士が警察及び検察に情報提供を求めることが必要です。

なお、かつての強制わいせつ罪、強姦罪、準強制わいせつ罪、準強姦罪は親告罪でした。事件を公にし、これらの犯罪を必要以上に追究・起訴することが、逆に被害者の名誉を傷つけることにつながる恐れがあるため、被害者の意思を尊重すべきだと考えられていたからです。しかし、実際は、被害者にとっては告訴するかどうかの選択を迫られることになります。
また、告訴した場合、被害者から報復を受ける恐れが生じるなど、親告罪であることによって、かえって被害者に精神的な負担を与えかねないことも少なくありません。

そこで、被害者の負担を軽減すべく、2017年の法改正で非親告罪になりました。つまり、被害者が告訴しなくても検察官は起訴できるようになったということです。

強制わいせつ致死傷罪と強制性交等致死傷罪は裁判員裁判の対象

強制わいせつ致死傷罪および強制性交等致死傷罪は、裁判員裁判対象の事件です。従来の裁判官裁判(平成21年から22年にかけて、裁判官のみによって行われた裁判)と、裁判員裁判(平成21年から26年にかけて、裁判官と国民の中から無作為に選ばれた裁判員によって行われた裁判)を比べると、例えば、裁判官裁判では単純執行猶予(保護観察のつかない執行猶予)が全体の23.2%、保護観察付執行猶予が21.7%であったのに対し、裁判員裁判では単純執行猶予が11.0%、保護観察付執行猶予が28.1%となっています。同じ執行猶予でも、裁判員裁判の方が、保護観察が付される割合が高くなっており、裁判員の厳しい評価がうかがえます。

また、これらの割合を足すと、執行猶予の付く割合は、裁判官裁判では44.9%、裁判員裁判では39.1%と、5.8ポイントもの差があります。裁判の時期や件数が異なるため、単純な比較はできませんが、裁判員裁判ではより重い判決が下される傾向にあることはわかります。

※データの出所:『犯罪白書(平成27年版)―性犯罪者の実態と再犯防止―』(法務省法務総合研究所 編)

まとめ

強制わいせつ・強制性交等致死傷罪は近年、非常に強い社会的非難を浴びている重大犯罪です。法改正と共に、重罰化も進んでいます。これらの罪で逮捕された場合には、いち早く被害者に対して謝罪、示談交渉を行うことが重要です。

性犯罪被害者をプロテクトする法改正が、世論の後押しもあって次々と実施され、重罰化が進んでいます。強制わいせつ、強制性交等致死傷罪も厳罰化の傾向にあります。さらに、同意なき性交渉罪の新設まで検討されているのです。

私が検事だった当時は、強姦罪は強盗罪よりも軽く、懲役4年の判決が出れば重い方でしたが、今では法定刑も懲役3年以上から5年以上に引き上げられ、懲役6年の実刑が一般的になりました。示談ができたとしても実刑判決になることも少なくありません。ですから、このような性犯罪は、捜査段階における示談が刑務所に行くか行かないかの分かれ目となるのです。つまり、起訴後の示談は必ずしも刑務所回避になりませんが、起訴前であれば、不起訴の可能性が高まるのです。

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