少年審判手続|少年事件の審判手続を弁護士が解説
少年事件の手続は、事件の受理に始まり、調査、審判を経て、終局決定に至って終結します。この一連の流れについては刑事事件における起訴、公判に至る手続と類似しています。もっとも、異なる点も多くみられます。例えば、通常の刑事裁判では当事者主義的訴訟構造が採用されており、検察官と被告人及び弁護人が対立して攻撃防御を尽くしたうえで、裁判所が独立した第三者として公的判断を下すという構造になっています。
これに対し、少年事件では、訴訟の構造がそもそも異なります。すなわち、少年審判では、検察官は原則として審判の当事者として関与しません。少年の非行性を明らかにするための専門的調査は弁論になじまない上、家裁を中心とする各関係者が少年の更生のため協力し合う手続がより適切であり、関係者の協力のもと、裁判官が直接少年に語りかける形式の方が望ましいと考えられるからです。そのため、対立当事者が存在せず、家庭裁判所が自ら手続を主宰し、少年に対する調査・審問の上で終局的な決定を行うことになる職権主義的訴訟構造となっているのです。
また、刑事裁判では憲法上、審理の公開が要求されている(憲法37条1項、82条1項)のに対し、原則として非公開です(少年法22条2項)。少年が社会復帰を進める上で、少年や家族のプライバシーに関して要保護性が求められるからです。さらに、一人の少年について複数の事件がある場合には、なるべく併合して審判しなければならないとされています(少年審判規則25条の2)。他方、一つの事件に複数の少年が関与していた場合には、原則として少年ごとに審理すべきとされます。
少年が審判期日に出頭しないときは、審判を行うことができません(同規則28条3項)。審判の教育的効果を図るためには、通常の刑事手続以上に出頭確保の必要性が高いからです。また、少年事件では、通常の刑事事件で採用される証拠法上の伝聞法則の適用がないことも重要といえます。警察・検察段階で署名押印した供述調書がいずれも容易に証拠になってしまうのです。
審判を開始することなく事件が終結するケース
審判を開始することなく事件が終結することを審判不開始といいます。審判不開始は、家庭裁判所による調査の結果、審判に付することができないとき又は審判に付することが相当でないと認めるときに行われます(少年法19条1項)。
審判に付することができない場合については、具体的には次の3つの場合が考えられます。
- (ア)審判条件が存在しない場合
- (イ)非行事実存在の可能性がない場合
- (ウ)少年の心神喪失や、所在不明、疾病、海外居住などにより調査・審判が法律上又は事実上不可能になった場合
(ア)の審判条件とは、保護手続の開始存続の条件を欠く場合をいいます。簡単にいえば、少年が20歳未満であるかどうか、有効な送致、通告及び報告が存在しているかどうか、同一の事件が他の家庭裁判所に二重に係属していないかどうかといった条件が欠けた場合に、審判不開始の判断がなされることになります。仮に少年が20歳以上であることが判明した場合には、家庭裁判所で審判する必要はなく、通常の裁判所で裁判を行えば足りるため、年齢超過を理由に検察官送致決定(少年法19条2項)がなされることになります。
(イ)については、証拠に照らして、非行事実の存在が認められないときをいいます。そもそも非行を行っていない場合には、少年審判に付する必要はないからです。
(ウ)については、所在不明になってしまった場合には審判を行うことができないため、審判不開始と判断されます。実務上、3か月ないし6か月程度所在不明と判断された場合に、審判不開始となる運用となっています。もっとも、その後、少年の所在が判明した場合には、再び審判が行われる場合もあります。
他方、審判に付することが相当でない場合については、審判条件や非行事実の存在が認められ、審判を行うことは可能ですが、保護処分等を行うことが妥当でなく、裁判官による直接審理の必要性もない場合を指します。具体的には次の3つの場合が考えられます。
- (ア)事案が軽微な場合
- (イ)別件保護中の場合
- (ウ)保護的措置により要保護性が解消された場合
(ア)事案が軽微とは、例えば、過失により傷害を負わせてしまった事件で、被害者の傷害の程度が極めて軽い場合が考えられます。この場合、既に警察や学校、家庭で適切な措置がとられ、再び非行に走るおそれがなくなっていると認められれば、審判を行う必要がないと判断されます。
(イ)は、少年が複数の事件を起こし、一つの事件で保護処分に付されている場合には、もはや別の事件で審判を行う必要はないと判断されます。
(ウ)は、調査官の訓戒や、教育的指導及び保護的措置によって、少年が将来再び非行に陥る危険性がないと認められることをいいます。例えば、街頭清掃活動といったボランティア活動に継続的に少年を参加させることで、少年の内省を促し、その結果、少年の性格・環境に照らして非行性を除去させることが行われています。
少年審判について
刑事裁判では、証拠調べ手続が終了した後、判決を出す前の段階で、弁護人が意見陳述をすることになっています。これを弁論といい、基本的には、検察官の論告求刑と対になっています。この弁論の目的は、訴訟の全過程を通じて行われた弁護活動の結果を集約し、証拠に基づき認定されるべき事実とこれに対して適用されるべき法律判断を周到かつ明快に展開し、裁判所に対し被告人に有利な判決を要請することにあります。
弁論は、被告人の権利を擁護するための第1審最後の機会であって、これまでの弁護活動の集大成として裁判所を説得するものになりますから、最終公判期日において、弁護人が弁論を読み上げる形で公判に顕出されることになります。ただ、通常は、口頭で読み上げるだけでなく、書面でも用意しておいて、その書面を裁判所に提出することになります。
弁論の内容としては、無罪を争う事件であっても、公訴事実を争わずに情状のみを争う事件であっても、検察官の主張及び被告人に不利益な証拠を弾劾し、被告人の言い分を積極的に主張していくことになります。少年審判においても、刑事裁判における弁論のように、審判の際に付添人が意見陳述するものがあります。これを付添人意見書といいます。
非行事実なしを争う事件であれば、付添人意見書においても、検察官の主張を弾劾するという形になりますが、少年の非行事実を争わない事件であれば、主に少年の非行性が減退していることや少年の生活環境が非行時よりも改善されていることなどを主張していくことになります。このように違いが出るのは、少年事件の手続が少年の犯した罪を罰するためにあるのではなく、少年の健全な育成を図るためにあるからです。そのため、少年事件では、付添人は少年の更生の度合いを裁判所に伝えることになります。
また、少年事件では、少年の非行性を調査するために、調査官と呼ばれる人が付添人とは別に調査を行います。そして、この調査官も付添人と同様に意見書を出しますが、この意見書の内容が審判の結果に大きく影響を与えるため、付添人の意見書は調査官が意見書を出す前に提出する必要があります。刑事裁判における弁論のように、付添人意見書を審判の日に初めて提出する形になっても、裁判所に与える影響はほとんどないものになってしまいます。それを表すかのように、少年審判では、付添人意見書をその場で読み上げるようなことはしません。
裁判官が付添人に対して、付添人の意見は付添人意見書のとおりでいいか聞くだけです。ですから、付添人意見書は早目に出す必要があります。さらに、付添人意見書は、弁論要旨と異なり、最終段階でなければ出せないということもありませんので、少年事件が裁判所へ送致されればいつでも提出することができます。
少年審判の流れ
少年審判は、刑事裁判と異なり、そこに参加する人間も違ってきます。刑事裁判では必ず検察官が出席していますが、少年審判では、少年が重大な非行事実を否認しているような事件でない限り、基本的には出席しません。これは、少年審判では和やかな雰囲気の中で審理を行い、少年に過度な緊張を与えないために配慮されたものだからです。
それでは、少年審判の出席者は誰になるのでしょうか。
基本的には、裁判官、書記官、調査官、付添人、少年、少年の保護者という形になります。ただ、家庭裁判所が求めれば、保護観察官、保護司、少年鑑別所の法務技官及び教官も出席することができますし、裁判長の許可があれば、保護者以外の少年の親族や少年の学校の教員なども出席することができます。
少年審判の審理
次に、少年審判の審理はどのように進められるのでしょうか。審判手続の進行は、一般的には、裁判長において審判の開始を宣言した上、次の順序、内容で行われています。
- 人定質問
- 黙秘権の告知
- 審判に付すべき事由の要旨の告知並びに少年及び付添人の陳述の聴取
- 非行事実の審理
- 少年の生活環境等の要保護性に関する事実の審理
- 最終的な処分決定の告知
- 決定の趣旨の説明および抗告できることの告知
上記④、⑤では、一般的に裁判官が少年に対して質問する形で審理が進んで行きます。少年審判は、前述のとおり、少年が手続の内容をよく理解できるように、懇切を旨として行い、和やかな雰囲気の中で、少年や保護者等に信頼感を持たせるように行わなければならないとされていますから、刑事裁判に比べて、裁判官の少年に対する対応は柔らかいものとなります。
また、裁判官からの質問が終わった後には、付添人と調査官からも質問が行われることが多く、少年に対して指導的な言葉が投げられることも多々あります。少年審判は、少年の非行事実を裁く場という意味だけでなく、少年に対して教育する場としての意味も有するため、このような審理方法がとられているのです。
要保護性とは
審判の対象は、非行事実と要保護性の有無にあります。要保護性とは、一般的には再非行の危険性や、矯正の可能性、保護処分による保護相当性の3つの要素により構成されます。
少年審判では、非行事実に争いのある事件においては、まず、非行事実に関する審理を行い、その結果、裁判官が非行事実があるとの心証を得た場合には、引き続き要保護性に関する審理を行うことになります。非行事実に争いのない事件であっても、重大事件では、審判期日を分けて非行事実に関する審理と要保護性に関する審理を行うことが多いといえます。
少年事件において関わる人達
少年事件では、弁護士が調査官、鑑別技官、裁判官と接する機会があります。特に、調査官については、調査段階においてコミュニケーションを取る機会が多くあります。この調査官というのは、医学、心理学、社会学や教育学などの知識を身に付けた家庭裁判所の職員のことをいい、調査官は、保護手続における調査を担当しています。
調査官は、少年と面接を行い、少年に対して、家庭および保護者との関係、境遇、経歴、教育の程度および状況、不良化の経過、性行、事件の関係、心身の状況などの聞き取りを行います。また、家族及び関係者に対して、経歴、教育の程度、性行および遺伝関係等、少年のプライバシーに関わるような幅広い聞き取りを行っていきます。調査官は、調査を終了した段階で、少年の最終的な処分についての意見書を裁判官に提出しますので、弁護士は調査官と頻繁に連絡を取り、調査官の心証形成に影響を与えていかなければなりません。弁護士の意見を調査官にしっかりと伝えるためにも、調査官が意見書を出す前に、弁護士が意見書を出す必要がありますし、少年に対しても、調査官との面接でどのような話をするか打ち合わせをしておく必要があるでしょう。
次に、鑑別技官との接し方ですが、鑑別技官とは、少年鑑別所の職員で、少年に対して面接や各種心理検査を行い、知能や性格等の資質上の特徴、非行に至った原因、今後の立ち直りに向けた処遇上の指針等を明らかにするという資質鑑別に従事する人のことをいいます。鑑別技官は、少年鑑別所における少年の様子を観察し、審判の前には意見書を提出しますので、やはり調査官と同様、弁護士が鑑別技官と会って、鑑別技官の心証形成に影響を与える必要があります。ただ、少年が鑑別所に入ってすぐの段階では鑑別技官も少年がどんな人間か把握できていないことも多いので、弁護士はある程度の期間が経ってから、鑑別技官と面会することが多いと思われます。
最後に、裁判官との接し方ですが、少年審判では主に調査官が少年の調査を行う関係で、弁護士が裁判官と接する機会は審判の時のみになりがちです。しかし、非行事実に争いがある事件は、勿論のこと、情状面に争いがある事件でも裁判官と事前に面談をすることが必要になってきます。弁護士が裁判官と事前に面談することで、少年についての共通理解ができることになりますし、裁判官の事件に対する印象をこちらも知ることができます。
特に、少年の処遇に関する意見が調査官と付添人とで異なる場合には、少年の処分を最終的に決定する裁判官の説得は重要であり、審判前の付添人と裁判官の面接は非常に重要な意味を持ちます。付添人としては、少年の特徴や現在の状態を裁判官に伝えるほか、少年の要保護性に関する問題点がどこにあり、付添人が考える処遇によりその問題点がどのように解決されるか、調査官の意見にはどのような問題があるのかなどについて、具体的に説明していきます。また、審判当日の進行などについて、通常と異なる対応を取ってもらいたい場合にも、付添人が裁判官と面談することがあります。
少年事件で事実を争う場合、どのような手続きとなるのか
少年がある非行事実で捜査を受けたものの、少年がその事実を否定している場合、弁護人としてはどのような活動をしていくことになるでしょうか。まず、捜査の初期段階では、弁護人が少年に対して黙秘権等の権利をしっかりと説明することが重要です。成人であっても、自分にどのような権利が認められているのか理解できていない人は多いですが、少年であればなおさらです。
少年は警察官の誘導に乗りやすいという面もありますので、弁護人がしっかりと少年に対して、黙秘権等の権利を説明し、「自分の記憶どおりに話せばいい。」ということを伝えておかなければなりません。そして、その上で弁護人が詳細に少年から聴き取りを行わなければなりません。少年の場合、重要なことであっても、自分から話さないことがよくあります。少年が話さなかったために、非行事実が認定されてしまうということがないように、弁護人の方からいろいろと少年に対して質問し、聞きだしていく必要があります。
次に、検察官が家裁送致についての判断をする段階では、弁護人が少年の主張を書面にして、検察官に対して家裁不送致を求める意見書を提出することが重要です。少年事件の場合、警察や検察の取調べで、少年が自分の言いたいことをうまく伝えられていないこともありますので、こちらから少年の言い分を聞き取ったものを資料として検察官に提出し、検察官に非行事実がないことを説得していきます。そして、事件を家庭裁判所に送らないように要請していきます。
その後、結果的に事件が家裁送致され、審判段階に入った場合には、付添人は、早めに裁判所と連絡を取り、審判の日程を調整する必要があります。非行事実を認めている事件であれば、通常審判は1回のみですし、審判までに4週間程度の時間がありますが、非行事実を争っている場合には、証人尋問期日等が別個入ることになりますから、タイトなスケジュールになる可能性が高いです。ですから、付添人は早目に立証計画を固めた上で、付添人にとっても少年にとっても無理のないスケジュールで日程調整をしておく必要があります。
また、審判の際の証人尋問や少年本人への質問の行い方について、付添人は、裁判所と協議しておく必要があります。少年審判では、裁判官が主導的に進めていくこともあり、裁判官から質問を先に行うケースも多くあります。ただ、少年によっては、付添人が先に質問した方が、緊張がほぐれてちゃんと話せるようになる子どももいますので、事前に付添人と裁判官どちらが先に尋問・質問するかなどを決めておかなければなりません。少年にとっては、付添人しか味方がいないと思う状況になりますので、付添人が、少年がしっかりと話せる環境を築いてあげることが重要です。
少年事件における被害者保護制度とは
成人の刑事事件と異なり、保護主義が採用されている少年審判においては、被害弁償をしたこと自体は、本来は要保護性に直接影響を与える事実ではありません。そのため、被害者と示談をすれば、処分が必ず軽くなるというわけではないのです。
しかし、少年や保護者が被害者に謝罪したいという意思を持っているか、被害弁償のために努力したかなどの事情は、要保護性を考える上で重要な要素になることも確かです。そのため、付添人としては、少年や保護者に謝罪文を書いてもらい、それをもって被害者と面会し、被害者と示談交渉を行っていきます。少年事件では、被害弁償をしたこと、示談をしたことそのものよりも、その過程が重要になります。
少年事件では、被害者保護の制度が用意されており、少年事件の被害者は、家庭裁判所に対して、①少年事件記録の閲覧・コピー、②心情や意見の陳述、③審判の傍聴、④審判状況の説明、⑤審判結果等の通知の申出をすることができます。
①少年事件記録の閲覧・コピーに関しては、捜査段階の記録や審判期日調書などが対象となっていますが、記録の中には、少年や関係者のプライバシーに深くかかわるものもあり、このようなものが被害者に閲覧・コピーされることになれば、少年の健全な育成を害するおそれもあります。そこで、付添人は、事前に裁判所に対して閲覧等をさせないように申し入れをしていきます。当該事項が開示されることによって、少年にどのような不利益が生じるかを裁判所に説明していきます。
また、③審判の傍聴に関しても、少年の故意の犯罪行為(殺人、傷害致死、傷害など)や交通事件(自動車運転過失致死傷)などによって、被害にあわれた方が亡くなっていたり、生命に重大な危険を生じさせる傷害を負ったりしたときには、被害者本人やその遺族が審判の傍聴をすることができます。ただ、家庭裁判所が、少年の健全な育成を妨げるおそれがあると認めたときには、被害者等が審判を傍聴することはできませんので、付添人は被害者等を十分に調査し、その者たちが審判を傍聴することで、少年の健全な育成を害するおそれがあると判断した場合には、裁判所に対してその者らの傍聴を認めないように意見書を提出していきます。