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控訴の審理手続と判決を弁護士が解説

東京都・池袋にて発生した事件で、被告人が自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われ、東京地裁で禁錮5年の実刑判決が確定したという報道がございました。

裁判の結果である刑罰は、検察官の指揮・監督の下、執行されることになっております。基本的には、禁固刑や懲役刑等が確定した場合は、通常、当該裁判が行われた裁判所に対応する検察庁が、収監の手続きを行います。

呼び出しの日時は、当該検察庁や収監先の拘置所等の内部事情にも左右されますが、早ければ数日、長ければ1か月程度かかることもあります。東京の場合では、判決確定の日から数えて1週間以内ほどで呼び出しがかかることが多いです。

本件については、被告人の年齢が高齢であることから、刑の執行停止が取られる可能性があるのではと話題になりました。刑の執行停止とは、刑の執行により健康を著しく害する事情等が存在する場合に、刑の一部又は全部の執行を停止する制度です(刑訴法482条)。法律上は「執行を停止することができる」と規定されていることから、刑の執行は、法律に該当する事由があるからといって必ず実施されるものではありません。

刑の執行停止が認められる事由の一つに、刑の執行を受ける者の年齢が70歳以上であることが挙げられていますが(同条二号)、現代の高齢化社会において、年齢が70歳であることだけをもって刑の執行が停止される可能性はほとんどなく、最終的には、健康状態その他の事情を総合的に考慮したうえで、検察官が刑の執行停止を行うか否かを判断することになります。

以下より、控訴の審理手続について代表弁護士・中村勉が解説いたします。

審理手続について

申立てによって、控訴審での審理に入ります。控訴審での審理手続については、基本的に第1審の規定が準用されますが(404条)、いくつかの特則があります。たとえば、弁護士以外の者を弁護人に選任することはできません(387条)。

控訴審の裁判

控訴審での審理が終わると、控訴審裁判所が判決や決定といった裁判をします。ここでは、控訴審裁判所が裁判をする際に妥当する「不利益変更禁止の原則」についてと、控訴審裁判所における裁判の種類について説明します。

不利益変更禁止の原則(402条)

被告人・その法定代理人・原審弁護人が控訴をし、検察官が控訴をしなかった場合、控訴審裁判所は第1審の判決よりも重い刑を科すことができない、という原則のことです。すなわち、この原則によって禁止されるのは、第1審判決より刑を重くすることだけであって、事実認定を被告人に不利に変更することは許されます。
では、刑が重くなったか否かはどのように判断するのでしょうか。たとえば、懲役3年と懲役6年であれば後者の方が重いのは明白です。

しかし、「懲役6月執行猶予3年間の執行猶予」と「禁固3月」では、どちらが重いのでしょうか。
これについては、「具体的に全体として総合的に観察し、第2審(控訴審)の判決の刑が第1審の判決の刑よりも実質上被告人に不利益であるか否か」によって判断するとされています(最決昭和39・5・7刑集18-4-136)。要は、刑の種類や執行猶予の有無等といった様々な事情を考慮して、全体的に判断するということです。一応の基準として、刑法10条が用いられます。

刑法10条第1項
「主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。」
第2項
「同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。」
第3項
「二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。」

先ほどの例ですと、「懲役6月執行猶予3年間の執行猶予」と「禁固3月」では、執行猶予付き判決よりも実刑判決の方が重いので、「禁固3月」の方が重い、ということになります(最大昭和26・8・1刑集5-9-1715、最決昭和55・12・4刑集34-7-499等)。

判決の種類

控訴審の裁判には、控訴棄却決定控訴棄却判決破棄判決があり、破棄判決の場合は、差戻し、移送、自判の場合があります。

控訴棄却決定

控訴棄却決定がされるのは、以下の場合です。

控訴申立てに不備がある場合(385条)
控訴申立てが法令上の方式に違反し、または控訴権消滅後にされたことが明らかな場合。

控訴趣意書に不備がある場合(386条)
控訴趣意書が期間内に提出されない、控訴趣意書に方式違反がある、控訴趣意書に必要な疎明資料・保証書の添付がない、控訴趣意書に記載された控訴申立理由が明らかに法定の事由に該当しないとき。

控訴棄却判決

控訴棄却判決がされるのは、控訴申立てが法令上の方式に違反し、または控訴権の消滅後にされたものである場合(395条)と、法定の控訴理由がない場合(396条)です。

破棄判決

法定の控訴理由がある場合、第1審を破棄する旨の判決がなされます(397条1項)。また、第1審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状について取り調べがなされ、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときには、判決で原判決を破棄することができるとされています(同条2項)。

第1審判決が破棄されると、事件は、第1審判決言渡しの前の状態で控訴審裁判所に存在することになるので、なんらかの措置をとらなければなりません。ここで採られる措置は、差戻し・移送・自判の3種類です。

差戻し

第1審裁判所にもう一度審理させることです。

移送

第1審裁判所と同等の他の裁判所に審理させることです。原判決が、管轄がないのにあるとして判決をした場合に、事件を管轄第1審裁判所に送ることになります。

自判

控訴審裁判所が自ら審理することです。もっとも、控訴審は覆審※ではないので、破棄されなかった部分については第1審裁判所の認定が維持されることになります。また、第1審で証拠とされたものについても、新たな証拠調べを行うことなく、認定の基礎とすることができます(394条)。

※覆審

第1審判決と無関係に、事件について新たに審判をやり直す方式のこと。

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