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学歴詐称は違法? – 学歴詐称発覚時の対応を弁護士が解説

大卒の人が高卒であると偽って懲戒免職となった事案がニュースとなりびっくりされた方も多いのではないでしょうか。
今回は、学歴の詐称がどのような法的責任を生じさせるのかを検討します。

学歴詐称をした履歴書を作成したら私文書偽造罪?

多くの企業(国・地方公共団体を含む)は、採用の際に履歴書を提出させています。そして履歴書には学歴の記載欄があります。学歴を詐称した場合にどのような法的責任が生じる可能性があるでしょうか。

まず刑事的な責任の成否について検討してみましょう。最初に私文書偽造罪(刑法第159条)が成立するか問題となります。

私文書偽造等 第159条
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

履歴書が「事実証明に関する文書」であることについて争いはありません。しかし自分の名前を書いて、単に大卒を高卒と書いたり、反対に高卒を大卒と書いたりしただけで「他人の…印章若しくは署名」を使用して「偽造」したといえるのか疑問に思われるかもしれません。

偽造罪とは、「名義人と作成者の人格の同一性の偽り」を生じさせることと定義されています。簡単にいうと、「実際に文書を作成した人」(作成者)と「その文書を読んだ一般人が頭に思い浮かべる文書を作成した人」(名義人)がずれるのが偽造です。

一方、内容虚偽の文書を作成することは偽造にはならないとされています。これは、刑法が内容虚偽の文書を作成することを別の罪として規定しているからです。

Aさんが現実には○○大学を卒業しているのに△△高校しか卒業していないと履歴書に書いていた場合、これを単に「Aさん」の学歴を偽った内容虚偽の文書と考えるのか。「○○大学が最終学歴のAさん」と「△△高校が最終学歴のAさん」は別人格なので「偽造」であると考えるのかで、私文書偽造が成立するかは異なります。この点についての検討が必要となります。

主要な裁判例

主要な裁判例には、履歴書の学歴だけを偽った事案で私文書偽造の罪に問われたものはありませんが、参考になる判例がいくつかあるので、それらをもとに検討する必要があります。

例えば、最高裁判所平成11年12月20日決定は、指名手配となっている被告人が逮捕等を免れるために自身の顔写真を貼り付けたうえで、虚偽である名前、生年月日および住所を書いた履歴書を作成した行為について私文書偽造罪の成立を認めました。しかし、この判例は、学歴を一部だけ偽った場合と比べて、履歴書から読み取れる人(名義人)と実際の提出者(作成者)との間に大きな差があったことに着目するべきです。したがって、この裁判例からは、履歴書の学歴を偽ることで私文書偽造罪が成立するとは断言できません。

また、最高裁判所平成5年10月5日決定は、実際に存在する弁護士Bと同姓同名である被告人Bが弁護士Bを名乗って報酬請求書等を作成した行為について、文書から読み取れる名義人は弁護士Bであり、被告人ではないとして偽造を認めました。「弁護士B」と「大卒が最終学歴のA」はいずれも肩書きであると考えれば、私文書偽造罪が成立するように思われるかもしれません。しかし、この判例は、作成した文書が弁護士業務に関連して、弁護士資格を有する者が作成した形式の文書であったことに着目するべきです。履歴書は一定の学歴のある者しか作成することができない文書ではないので、この判例を根拠として履歴書への虚偽の学歴の記載が私文書偽造罪となると断言することはできません。

このように判例を分析してみると、単に履歴書で学歴を詐称したことを理由に私文書偽造罪が成立するとは即断できません。もっとも、判例は内容虚偽とも思われる文書について、その虚偽部分を「人格」の属性を読み込むことで私文書偽造を認めています。そうしますと、事案によっては学歴詐称が「偽造」とみなされる可能性があります。

学歴詐称をした履歴書を作成した場合の私文書偽造罪の成立について過大に心配をする必要はありませんが、履歴書の形式、詐称した内容等で結論が変わりうる可能性があります。不安に思われた方は守秘義務のある法専門家に相談するのがよいと思われます。

学歴詐称をして給料を受け取ったら詐欺罪?

それでは、学歴を詐称して採用された場合、詐欺罪は成立するでしょうか。
以下が詐欺罪の条文となります。

詐欺 第246条
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

主要な裁判例には、本件のように学歴のみで虚偽を述べた場合の詐欺罪の成否について判断したものはありませんが、学歴詐称の事案で詐欺罪の成立にあたって一番問題になるのが、本当に企業等が詐欺罪の被害者といえるのかという点です。この点について判例は、騙された内容が経済性を有する必要があると考えています(実質的個別財産説)。例えば18歳未満の者が本屋に行き、18歳を超えていると嘘をついて、ちゃんとお金を支払って18歳以上の者を対象とする雑誌を買った場合を想定してみましょう。確かに本屋は年齢について騙されていますが、お金はきちんと受け取っていますので、騙された内容が経済性を有するとは評価できないので詐欺罪にはならないと考えられているのです。

学歴の詐称の場合について考えると、特に大卒の人が高卒と偽って就職した場合、高卒の資格もある大卒の者を高卒相当のお給料で雇うことができたし、きちんと働いてくれているのであれば、経済性を有する内容について騙されていないとの疑問が生じるのです。また高卒の者が大卒と偽っていた場合についても、その仕事ぶりが他の大卒の人と同じであれば経済性のある点について騙されていないとの疑問も生じます。

関連する類似の裁判例

この点に関する類似の裁判例を確認しましょう。
東京高等裁判所昭和59年10月29日判決は、医師免許を有していると病院を騙して医師として採用され給料を受け取っていた行為について、詐欺罪が成立することを認めました。詐欺罪が成立する理由として、同判決は、単に労務の対価として病院は給料を支払ったのではなく、医師としての診療行為に給料を支払っており、給料は資格と不可分一体のものであることが理由としています。

この裁判例とパラレルに考えれば、高卒の者が大卒と偽っている場合、仕事ぶりが他の大卒の者と変わらなかったとしても、高卒と大卒で給料の額や出世のスピードが明確に異なる雇用体系を取っている場合、大卒の資格と給料が不可分一体と考えることができますので、高卒を大卒と偽った点は経済性を有するので詐欺罪が成立すると思われます。

大卒であるのに高卒と偽っていたケース

一方、大卒であるのに、高卒と偽って雇われ、高卒相当のお給料を受け取っていた場合、大卒の前提として高卒の資格を有していますし、本来は給料の高い大卒の人を高卒相当のお給料で働かせることができたのですから、この騙された内容は経済性を有さないので詐欺罪は成立しないと考えることもできます。

確かに、大卒と高卒で職域を分けるとの企業内秩序を構成している企業もありますし、継続的な雇用のスタートラインで虚偽を述べる者を採用することは企業に不利益ともいえます。また、公務員の場合は、高卒の人の就業の場を確保するために高卒を対象にした試験を実施しており、大卒を高卒と偽るのはこのような雇用主側の努力を無にすることでもあります。しかしながら大卒を高卒と偽ったことを財産罪としての詐欺罪で処罰するのは飛躍があると思われます。

なお、学歴詐称を対象とした詐欺罪の成否については実務上の確定した解釈はありませんので、上記のような結論に必ずなるわけではありません。個別具体的な検討が必要となるので、心配な方は法専門家にご相談ください。

「学歴詐称」をして採用された場合の民事的な責任は?

このように、より高いお給料をもらうために学歴詐称をした場合を除いて刑事的な責任を問われる可能性は高いとはいえません。これに対し、民事的な責任を追及される可能性は大いにあります。まず、経歴詐称をして採用をされた場合、懲戒解雇となる可能性が高くなります。

懲戒解雇は、就業規則で事前に定めたうえで、労働者に周知をしておかないと効力をもちません。厚生労働省は就業規則のモデル規則を作成していますが、同モデル規則でも、「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」は「懲戒解雇」とすると定められています。もちろん就業規則で定めれば軽微な経歴詐称でも懲戒解雇にできるというものではなく、解釈上「重要な経歴」の詐称が必要となると理解されています。

それでは、高卒なのに大卒と偽った場合や、反対に大卒なのに高卒と偽った場合は「重要な経歴」の詐称といえるのでしょうか。裁判例の多くは、労使の信頼関係を破壊し採否の判断に重要な影響を及ぼすようなときは懲戒解雇とできると考えています。そうしますと、仮に自身の経歴を過少に偽ったとしても(大卒を高卒と偽るなど)、懲戒解雇になる可能性が高いといえます。

もっとも、①採用時において経歴が重視されていなかった場合、②使用者が十分に調査をしなかった場合、③採用後の勤続年数が長かった場合などで懲戒解雇が無効とされたものもあります。したがって、仮に経歴詐称が明らかになり懲戒解雇となった場合でも、本当に懲戒解雇が相当であるのか検討をすることが重要です。懲戒解雇になれば退職金が不支給になるなど、不利益は甚大です。経歴を詐称したとの点は反省するにしろ、罰が相当か否かは検討することが必要です。

婚活で学歴を詐称した場合の責任

これまでは就職における学歴詐称を検討してきましたが、男女関係における学歴詐称も問題となりえます。学歴を詐称した場合、何らかの法的責任が問われることはあるでしょうか。まず、前述したように学歴を詐称した文書を作成しても私文書偽造罪が成立する可能性は高くないといえます。また詐欺罪についても、学歴の詐称が婚活の場面で経済性を有することはなかなか考えにくいといえますので、詐欺罪が成立する可能性も高いとはいえません。

一方、民事的責任については慎重に判断をする必要があります。
現在の裁判実務では不法な手段を用いて性交渉を行った場合、貞操権や性的自由もしくは人格権を侵害したとして損害賠償責任を認めています。不法な手段として裁判例上よく見られるのは、配偶者がいるにも関わらず離婚をして婚姻をするなどと虚偽を述べて性交渉を持つ、もしくは独身ではあるが婚姻する気が無いにも関わらず婚姻する気があるように虚偽を述べて性交渉を持つ場合です。

ただし、いずれの事案も婚姻を前提にした虚偽であることに注意が必要かと思われます。これは、将来的に婚姻をすると提案されれば性交渉に応じるのももっともであり、その点の虚偽は性行為を行うか否かの自己決定に大きな影響を及ぼしているとの価値判断があるものと思われます。

これに対して、学歴を詐称したとしても、それが相手方の性的自己決定権の行使に大きな影響があると考えられない場合には、学歴詐称があったので性交渉に及んだと主張をしてもその請求が認められるのは難しいと思われます。

婚約中に学歴詐称が発覚したら?

次に、学歴を詐称していたことが婚約中に発覚した場合に婚約を破棄できるのかという点です。婚約とは、「将来婚姻しようとする男女の真摯な合意」と定義されています。婚約をした当事者は、互いに婚姻を成立させるように努める義務を負うとされており、これを不当に破棄した場合には損害賠償責任を負います。

それでは、相手方が学歴を偽っていた場合、婚約を破棄してもよいのでしょうか。この点について明示的に判断した主要な裁判例はありませんが、婚姻によって夫婦相互は扶助義務(民法第752条)や婚姻費用分担義務(民法第760条)を負いますし、高卒と大卒で生涯の平均賃金の差が大きいのが社会的な実態です。

そうすると学歴の差によって扶助義務や婚姻費用分担義務に大きな差が生じる可能性があり、この点について虚偽を述べていたことは婚姻に関する自己決定権を侵害する度合いの大きな虚偽であると評価できる可能性があります。したがって、この点を理由に婚約を破棄することは許されると思われます。

もっとも、学歴を詐称していた者の職業が学歴によって影響を受けない職種であり賃金に大きな差を生じさせないものであった場合などは、この限りではないかもしれません。ケースバイケースの判断になります。

学歴詐称は離婚事由となるか?

最後に、学歴詐称が離婚事由となるかについて検討をします。離婚原因は法定されています(民法770条)。このうち、学歴詐称が問題となるのは「婚姻を継続し難い重大な事由」といえるかどうかです。この要件については、婚姻共同生活が破たんしており、修復の見込みがないことと一般的には理解されています。そして、この要件を満たしているかについては、婚姻中における両当事者の行為や態度、婚姻継続の意思の有無等の婚姻関係にあらわれた一切の事情が考慮されると解釈されています。

離婚が認められるかどうかについては、結婚に至った経緯(どの程度学歴を重視して結婚を決めたのか)、夫婦生活がどの程度学歴によって影響を受けたのか、また受けるのか(学歴によって収入が大きく異なったのか、異なるのか)といった点が問題になり、これについても、個別の具体的事情が重要となります。

まとめ

このように学歴の詐称を行った場合、刑事的な責任を追及される場面はさほど多くはないかと思われますが、民事上の責任は広範に及ぶことが想定されます。小さな嘘を重ねていくとより大きな嘘をつかなければならなくなります。法的責任がどの範囲にどの程度及ぶのかを法専門家と検討したうえで、適切に対応することが必要となります。

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