「在宅起訴された」という言葉をよくニュースで見かけますが、在宅起訴という言葉について正しく理解している方は多くはないのではないでしょうか。
近年では、スマートフォンを見ながら自転車を脇見運転し、歩行者に衝突して死亡させた元大学生の女性が在宅起訴されて話題となりました。しかし、在宅起訴という言葉から、在宅起訴について漠然とイメージできたとしても、通常の起訴との違いについて正しく理解できるでしょうか。そこで今回は、在宅起訴について弁護士が解説いたします。
在宅起訴とは
在宅起訴とは、被疑者となる方が留置場などの刑事施設に身柄を拘束されていない状態で(在宅)、検察官が裁判所に訴訟を提起すること(起訴)をいいます。具体例でいえば、暴力事件を起こしてしまった者が、自らの家で通常どおり生活している状態で起訴される場合が挙げられます。
通常の起訴の場合は、被疑者は刑事施設に身柄を拘束された状態のまま起訴されることになるため、これに対して保釈されない限り、日常生活を送ることができず、仕事等に重大な影響が生じます。在宅起訴の場合は、身柄を拘束されないため、事件を起こした場合であっても、通常どおりの生活を送ることができ、仕事等への影響が抑えられることになります。
通常の刑事事件においては、身柄を拘束されることが多く、日常生活や仕事等に重大な支障が生じてしまうため、身柄の拘束の有無は被疑者となる方にとって大変重要であるといえます。
在宅起訴に至るまでの流れ
在宅起訴になる場合として、逮捕がなされないまま捜査が行われて起訴される場合、逮捕されたが勾留されずに捜査が行われて起訴される場合や、逮捕され勾留されたものの起訴される前に釈放され釈放後に起訴される場合があります。そこで、まずどのような場合に逮捕されるのかについて説明します。
逮捕について
逮捕とは、現行犯逮捕などの場合を除き、刑事訴訟法第199条及び刑事訴訟規則第143条の3において、以下のように規定されています。
刑事訴訟法第199条
1 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
刑事訴訟規則第143条の3
逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。
簡単に言うと、逮捕状が発付されるためには、①被疑者が罪を犯したと考えられる相当な理由があり、②逮捕の必要性があることが前提となっています。逮捕の必要性とは、刑事訴訟規則第143条の3によれば、被疑者が逃亡する可能性や証拠を隠滅する可能性がある場合をいいます。つまり、罪を犯したと考えられる相当な理由がある場合であっても、被疑者が逃亡する可能性も証拠を隠滅する可能性もない場合には、逮捕の必要性がないため、逮捕状は発付されません。
逮捕されなかった場合
被疑者が逃亡する可能性も証拠を隠滅する可能性もないため、逮捕されなかった場合は、身柄を拘束されることがないまま刑事手続が進むことになります。この場合、被疑者は、日常生活を送りながら捜査を受けることになり、場合によって起訴(略式起訴または通常の起訴)されることになります。
そして、起訴された場合には、裁判(略式手続または通常の裁判手続)が行われることになります。なお、身柄拘束がなされていない場合には、起訴までの期間が定められていないため、起訴または不起訴となるまで長期になることがあります。
また、被疑者が逃亡する可能性や証拠を隠滅する可能性が生じた場合には、その段階で逮捕されてしまうこともあります。
逮捕されたが勾留されなかった場合
通常、逮捕された場合には、以下のような流れになります。
逮捕 → 検察送致(「送検」、検察官に身柄を引き渡すこと) → 勾留 → 検察による捜査 → 起訴 → 裁判 → 判決
勾留とは、警察官や検察官が事件の捜査を行うために、被疑者を逮捕した後、裁判所が引き続き被疑者の身柄を刑事施設等に拘束することをいいます。勾留するためには、逮捕の場合よりも被疑者が逃亡する可能性や証拠を隠滅する可能性が高いことが必要です。
被疑者が勾留されなかった場合には、その後は身柄を拘束されることがないまま刑事手続が進むことになります。この場合、被疑者は日常生活を送りながら捜査を受けることになり、場合によって起訴(略式起訴または通常の起訴)されることになります。そして、起訴された場合には、裁判(略式手続または通常の裁判手続)が行われることになります。また、身柄拘束がなされていない場合には、起訴までの期間が定められていないため、起訴または不起訴となるまで長期になることがあります。
勾留されたが釈放された場合
勾留された場合でも、捜査が進み身柄を拘束する必要が無くなった場合には、釈放されることがあります。この場合、被疑者とされた方は、先程と同様に、日常生活を送りながら捜査を受けることになり、場合によって起訴(略式起訴または通常の起訴)されることになります。そして、起訴された場合には、裁判(略式手続または通常の裁判手続)が行われることになります。
在宅起訴になる条件
在宅起訴になる場合には、通常の起訴と比べて、被疑者の日常生活への影響が少なくなりますが、どのような犯罪であっても在宅起訴になるとは限りません。そこで、在宅起訴になる条件について、詳しく説明します。
軽微な事件であること
在宅起訴になるためには、被疑者の起こした刑事事件が比較的軽微であることが必要です。在宅起訴とは、被疑者の身柄が拘束されていない状態での起訴のことをいい、被疑者が逮捕勾留されていないことが前提となっています。そこで、在宅起訴になるためには、逮捕勾留する必要のない比較的軽微な刑事事件であることが必要となります。
具体的にいえば、殺人事件などの重大な事件である場合には在宅起訴になることは通常考えられませんが、暴行事件や傷害事件などの場合には在宅起訴となることが十分考えられます。
逮捕勾留されていないこと
逃亡の可能性がないこと
逃亡の可能性がある場合には、逮捕の必要性が認められることになるため、逮捕される可能性があります。また、逃亡の可能性がある場合には、勾留の必要性も認められる可能性が高いため、勾留される可能性があります。したがって、在宅起訴となるためには、逃亡の可能性がないことが必要となります。
逃亡の可能性の有無については、「事件の内容、罪を認めているかどうか、示談の有無、職業、同居人の有無、前科前歴の有無」などの多くの事情を考慮して判断されることになります。具体的には、事件が比較的軽微であって、職場で責任のある役職についており、家庭をもっている場合には、その生活環境を捨てて逃亡する可能性が低いため、逮捕勾留されず在宅起訴になると考えられます。
証拠隠滅の可能性がないこと
証拠隠滅の可能性がある場合には、逮捕の必要性が認められることになるため、逮捕される可能性があります。また、証拠隠滅の可能性がある場合には、勾留の必要性も認められる可能性が高いため、勾留される可能性もあります。したがって、在宅起訴となるためには、証拠隠滅の可能性がないことが必要となります。
証拠隠滅の可能性の有無については、「事件の態様、罪を認めているか、共犯者の有無、共犯者との関係性、証拠隠滅が容易であるか、予想される処罰の不利益の程度」などの多くの事情を考慮して判断されることになります。
具体的には、比較的軽微な刑事事件であって、罪を認めており、共犯者がおらず、予想される刑罰の程度が罰金刑である場合には、証拠隠滅を行う利益が乏しいため、証拠隠滅の可能性が認められず、逮捕勾留されずに在宅起訴になると考えられます。
在宅起訴に関連する4用語
1.書類送検
書類送検とは、刑事事件を起こした被疑者が刑事施設に身柄拘束されていない状態で、送検(警察から検察へ捜査書類が送られ、検察へ捜査の主体が移ること)されることをいいます。簡単に言うと、書類送検とは、被疑者が逮捕勾留されていない状態で、捜査の主体が警察から検察に移る手続のことです。
在宅起訴となる刑事事件は、逮捕勾留による身柄拘束がなされていなため、書類送検されることになります。なお、書類送検とは、マスコミ用語の一種であって、法律上は「送致」といいます。
2.略式手続
略式手続とは、検察官の請求により、簡易裁判所が公判手続によることなく100万以下の罰金または科料を課す手続をいいます。略式手続は、被告人が罪を認めることを前提として行われる裁判であり、略式裁判になった場合には、罰金または科料を言い渡されます。
また、略式裁判であっても、有罪として刑罰を受けているため、前科がつくことになります。具体的には、自動車運転中の比較的軽微なスピード違反や軽微な暴行・傷害事件等が挙げられます。
3.略式起訴
略式起訴とは、略式手続のうち、検察官が公判手続によることなく書面で審理を行うことを請求する起訴手続のことです。在宅起訴になる刑事事件は、軽微な刑事事件である場合が多いため、被疑者が罪を認めている場合には、略式起訴される可能性が高いといえます。
4.略式命令
略式命令とは、略式手続のうち、通常の裁判の「判決」にあたるものです。略式手続の開始に同意した被疑者は、検察官がその手続開始を裁判所に求めておよそ2週間以内に、略式命令という書面を裁判所から交付されます。なお、一度は略式手続の開始に同意した場合であっても、不服が生じた場合には、2週間以内であれば通常の裁判手続を求めることができます。
もし在宅起訴されてしまったら?
身柄を拘束された場合
刑事事件で逮捕勾留されてしまった場合には、早期の釈放を目指すことが重要となります。刑事施設に身柄を拘束されてしまうと、日常生活を営むことが困難となる上、仕事などに影響が生じてしまい、通常の生活に大きな支障をきたすおそれがあります。そこで、逮捕勾留の条件である「軽微な事件であること、逃亡の可能性がないこと、証拠隠滅の可能性がないこと」を的確に主張する必要があります。もっとも、逃亡・証拠隠滅の可能性がないことは、先ほど述べたように、多くの事情を考慮して判断されることになるため、弁護士にできるだけ早期の依頼をすることが重要となります。
身柄を拘束されなかった場合
刑事施設に身柄を拘束されなかった場合には、不起訴または処分保留を目指すことが重要になります。仮に略式手続であっても、有罪として刑罰を受ける可能性が高いため、前科がつくことになり、今後の社会生活や就職活動に影響が生じてしまいます。そこで、身柄が拘束されなかった場合には、不起訴または処分保留を目指すことになります。
身柄が拘束されていない刑事事件は、軽微な事件であることが多いため、被害者との示談を成立させ、反省の態度を示すことが重要となります。もっとも、示談の交渉や反省の態度を示すためには、ケースに応じて適切な対応をすることが必要となるため、弁護士にできるだけ早期に依頼して慎重に判断することが重要です。
在宅起訴される可能性が高い場合
検察官に起訴される可能性が高い場合には、略式手続を目指すことが重要となります。略式手続になる場合には、罰金刑となり、公判手続を経ることがないため、被告人に対する負担は少ないといえます。
略式手続を目指す場合には、事実を認めた上で反省の態度を示す必要等があります。もっとも、略式手続による処分を受けられるかは、公判手続を経ないことから一定の制約があるため、慎重に判断する必要があります。そこで、刑事事件に強い弁護士に早期に依頼して、ケースに応じた適切な対応をすることが重要となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。在宅起訴となる事件の場合、身柄拘束を受けていないことに安心してしまい、適切な対応を行わないことがあります。しかし、ケースに応じた適切な対応をしなければ、実刑を受けるなど思いがけない重罰が科される可能性がありますのでご注意ください。
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