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否認事件の示談を弁護士が解説

本コラムは弁護士・中村勉が執筆いたしました。

否認事件とは

否認事件とは、刑事事件において、罪を犯したと疑われている人(以下、「被疑者・被告人」といいます)が行ったと疑われている事実関係あるいはその法的評価(以下、「事実関係等」といいます)を、当該被疑者・被告人が認めていない事件のことです。
ちなみに、事実関係・法的評価の一部を否認していることを「一部否認」ということがあります。
被疑者・被告人は、事実関係等を(一部でも)認めていない、つまりそれには間違いがあると主張しているのですから、被疑者・被告人又はその弁護人は、検事・裁判官に対し、一般に、その否認が正しいと認めてもらう主張・立証活動を行っていくことになります。

示談とは

一方、示談とは、被疑者・被告人が、疑われている事実の被害者等と交わすものであり、通常、反省悔悟の情及び謝罪の意を示して、被害弁償を受け取ってもらうとともに、最終的には、被害を与えたことを許してもらい(「宥恕」という言葉を使うことがあります)、被疑者・被告人に対する刑事処分を望まない意思表示をもしてもらうことを目指すものです。

したがって、示談ないし示談に向けた弁護活動は、前記した否認事件の被疑者・被告人の態度、主張・立証活動とは相容れない行動となることが多いのです。
特に、自分が犯人でないと主張する場合(犯人性を否認する場合)、疑われている行為そのものをしていないと主張する場合は、示談ないし示談に向けた弁護活動と根本において矛盾する行動として、その主張の根拠を揺るがすことになりかねません。

刑事事件における示談の一般的重要性

それでは、否認事件においては、示談の試みをする必要が全くないと言い切れるでしょうか。
一般に、犯罪により被害を被った方(被害者)やその親、遺族等(以下、「被害者等」といいます)は、被疑者・被告人から加害されたとして著しく感情を害し、強い被害感情・処罰感情を持っておられます。それ自体、人間として誠に自然な感情でしょう。
そして、その感情の強さは、検察官による起訴・不起訴の処分、裁判になった場合の量刑・判決に執行猶予が付されるか否かなどの判断に大きな影響を及ぼします。

被疑者・被告人が被害者等との間で上記のような示談を締結することができれば、被害者等の被害感情・処罰感情が相当程度癒やされたということになりますから、検察官・裁判官からは被疑者・被告人に有利な事情として評価され、検察官による起訴を免れ、たとえ起訴されても裁判官から執行猶予付き判決などの寛大な刑を得ることができる可能性が、示談不成立の場合と比べて相当に高まります。

よって、被害者等の存在する類型の刑事事件にとって、示談成立の有無・内容は、決定的と言ってもよいほど重要な要素と言うことができ、そこに、否認事件であっても被害者等と示談することを検討すべき余地が出てきます。

否認事件においても示談を検討すべき場合

全部否認(事実関係あるいはその法的評価の全部の否認)の場合

上記のとおり通常は示談とは相容れない否認事件、特に全部否認の事件においても、示談を検討すべき場合はあります。例えば、被疑者・被告人の職業、名誉その他諸般の事情から、どうしても身柄拘束や起訴ないし刑事処分を避けたいとき、既に身柄が拘束されている場合にどうしても早期に釈放されたいとき、できる限り事件を表沙汰にしたくないときなどです。

但し、自分が被疑者でないと主張する場合、疑われている行為そのものをしていないと主張する場合は、示談を試みる行動自体がその否認主張と相反するものとなり、万が一示談に失敗し、あるいは示談に成功しても残念ながら起訴された場合には、検察側から示談ないし示談交渉をしたことを立証され、裁判官にもその行動自体がその主張の正当性を揺るがすものと認定されかねないので、示談の方針を採ること自体とその方法には慎重さが必要です。

一部否認(事実関係あるいはその法的評価の一部の否認)の場合

一方、否認事件でも、一部否認の場合は、全部否認の場合と比べて示談を検討すべき余地は広がります。
例えば、殺人を疑われた場合に殺意を否認し、傷害致死、過失致死等を主張する場合、(事後)強盗を疑われた場合に暴行・脅迫の程度が弱いとして窃盗を主張する場合などです。前者は、被害者が死亡した事実とそれが被疑者・被告人の行為の結果であることには違いがなく、後者は、人の財物を奪取したことに違いがなく、少なくともその認めている部分については民事的に損害賠償義務があるので、示談を試みる必要がありましょう。

例えば、強制性交等を疑われた場合に合意があったとしてその罪の成立を否定する場合、詐欺を疑われた場合に欺罔行為を否認する場合で出資法その他の罪にも該当しないときなど(罪が成立しないことを主張するという意味では全部否認ですが)は、本来は罪が成立せず、損害賠償義務もないので、示談をする必要性は法的にはないことになりますが、意思疎通の齟齬などから「被害者」にご迷惑をおかけしたとして示談を試みるべき事例もありましょう。

否認事件における示談の問題点

上記のとおり、被害者等は、一般に、加害行為により著しく感情を害され、強い被害感情・処罰感情を持っておられますから、そもそも、自分の被害を弁償してもらうという多分に財産的な被害回復より上記の感情の方が勝り、被疑者・被告人の刑事責任を軽減する可能性のある示談締結に消極的で、場合によっては、その感情の原因となっている被疑者・被疑者側の人間に会いたくないとして、示談交渉そのものさえ拒否されることもあり、それもまた人としての自然な感情の表れと言えましょう。

そのような状況の中、ましてや被疑者・被告人が(たとえ一部でも)否認をしているということになると、被害者等は、自分への加害行為につき反省悔悟・謝罪するどころか、事実関係等も認めないのに何が示談かと更に感情を害し、示談交渉のテーブルにさえついていただけず、そうでなくても相当困難な示談交渉になることが普通ですし、場合によっては相場より高額の示談金を要求されるなど、被疑者・被告人にとって過酷な示談条件を突きつけられたりすることもありましょう。

要求される金額が法外などその他の条件の内容にもよりますが、示談に応じるか否か、提示する条件をどうするかなどは、基本的に被害者等の自由(もちろん、被疑者・被告人側にも、その提示に応じるか否かの自由はありますが)であり、被害者等のその対応自体を非難する根拠はないということを理解する必要がありましょう。

そこに否認事件における示談及びその交渉の問題点と困難さがありますが、より根本にあるのは、被害者等は、被疑者・被告人がその犯罪を行ったと考え、これに対し、被疑者・被疑者は、やっていないと主張し、互いの主張が大きく食い違い、大抵の場合相容れないということです。

被疑者・被告人側としては、否認している以上、大抵は被害者等が示談に応じる重要な前提条件とする、罪を認め(て反省ないし謝罪す)るという前提に立てず、その条件を欠く状況から示談交渉を始めねばならない一方で、被害者等に面と向かって、被害に遭ったというご主張が間違っているなどとは口が裂けても言えず(言った途端に示談交渉は決裂するでしょうし、被害者等の間違い・誤解を糺すには最終的には裁判しかないので、示談の目的と相反するからです)、ただでさえ困難な示談交渉が、より困難となることは避けられません。

否認事件における示談の方法

上記のとおり、否認事件における示談ないし示談交渉は、相当に困難であり、疑われている事実関係ないしその法的評価の性質、事案の具体的な内容、起訴・不起訴又は判決結果に対する見通し、被疑者・被告人側及び被害者等の側それぞれの事情その他諸般の事情を見据えた上、示談申出・条件提示の時期・内容等にも気を配りながら慎重に行う必要があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。否認事件の示談はなかなか困難です。こうした事案の示談交渉を自ら行って事態をこじらす前に、こうした刑事関連事件に対する専門的知識と経験が豊富な弁護士に早期に依頼することが重要です。

否認事件の解決事例を一部ご紹介します。

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