ワンナイト、あるいは、ワンナイトラブなどと称する、いわば行きずりの一夜だけの男女の性関係は、事件になる・ならないは別にしても、この言葉が若者に一般化していることから見ても一定の広がりをもった現象なのでしょうか。
特に近年、SNSやマッチングアプリの普及もあり、真剣交際ではなく、一夜限りの関係を持つワンナイトが多く見られるようになりました。しかし、それに伴い、ワンナイトに関するトラブルも珍しくなくなりました。
そこで、今回は、ワンナイトに関するトラブルについて代表弁護士・中村勉が解説いたします。
合意のワンナイトでも罪に問われるか
両者の合意の上での性的行為は犯罪になりません。
しかし、性的行為について合意があったかなかったかは、はっきりした証拠がないことがほとんどであり、また、片方は合意があると思っていたのにもう片方は合意がなかったということもあり得るため、合意の有無をめぐってトラブルになるケースが絶えません。
なぜ認識に違いが生じるか
例えば、売買契約で合意の有無が争われるというケースはあまり想定できません。金額が大きければきちんとした売買契約書を作成し、売買の目的物やその金額、引渡しの時期・方法などを合意した内容を書面ではっきりさせます。金額の小さい店舗での買い物ではわざわざ契約書を作ることはありませんが、買主が商品をレジに持っていって代金を支払い、売主が代金を受け取れば、「買います」「売ります」といった言葉がなくとも、そのやり取りだけで双方に売買契約の合意があることは第三者から見ても明らかです。領収証やレジの防犯カメラがあれば、なおさら明らかでしょう。
しかし、性的行為はどうでしょうか。契約書を作るということは通常考えられません。もしお金のやり取りがあったとしても領収証を作ることは考えられませんし、お金のやり取りも防犯カメラのある場所でなく、ホテルや自宅の一室など防犯カメラのない場所で受け渡しが行われるケースが多いと思われます。
また、ホテルや自宅の一室に男女が2人で入ったとしても、それだけで性的行為の合意があることが第三者から見て明らかとまでは言えません。
もちろん、その男女が入ったのがラブホテルのような性的行為をすることが通常予定されているような場所なのか、単なる自宅なのかなど状況によって判断は異なりますが、いずれにしてもレジでの買主と売主のやり取りのように、第三者から見て明らかに合意があるといえることはないでしょう。そして、第三者から見て明らかでなければ、当事者同士でもやはり相手に合意があるかどうか断言できない状況であると考えられます。
性的行為に合意があったという広い意味では、双方の認識が合致していたとしても、どの程度の行為まで合意があったのかまで踏み込むと認識に違いがある場合もあります。
例えば、女性はキスをすること合意していたがそれ以上の性的行為は合意していなかったとします。しかし、男性はキスが大丈夫ならその場の雰囲気から性交までして大丈夫だと勝手に判断して進めてしまう、などといったというケースが想定できます。この場合は、女性に性交についての合意はありませんので、状況次第では強制性交等罪や準強制性交罪の成立が考えられます。
相手が未成年者の場合
相手が未成年の場合、合意があったとしても、犯罪が成立し得ます。一般的に未成年は判断能力が未熟であり、その合意が真意かどうかは疑問が呈され、保護の必要性が高いとされています。
具体的には、13歳未満の場合には、被害者の承諾があっても強制わいせつ罪・強制性交等罪が成立しますし、13歳以上であっても18歳未満の場合は、多くの場合、青少年育成条例違反になります。また、金銭のやり取りなどがあれば、児童買春として処罰されます。
ワンナイトのトラブルで該当しうる犯罪
続いて、相手が成年の場合についても、成立しうる犯罪について解説していきます。
強制わいせつ
刑法第176条(強制わいせつ)
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
まずは強制わいせつ罪について解説します。ポイントは、「13歳」「暴行又は脅迫」「わいせつな行為」の3語です。順番に見ていきましょう。
まず、「13歳」について見ていきます。「13歳以上の者」に対しては「暴行又は脅迫」という文言が要件になっているのに対して、「13歳未満の者」については、「暴行又は脅迫」という文言がなく、「わいせつな行為をした者も同様」とあります。つまり、被害者の年齢が13歳以上か未満かによって、「暴行又は脅迫」の要否が変わるのです。この条文の文言からは直接読み取れませんが、先ほど「相手が未成年の場合」の項目で触れたとおり、被害者が13歳未満の場合、被害者の承諾があっても本罪が成立します(条解刑法)。
次に、「暴行又は脅迫」について見ていきます。「暴行」とは、身体に対する不法な有形力の行使をいい、被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度の暴行であれば足ります。ただし、ここでいう「暴行」は、殴ったり蹴ったりすることに限られず、一般的に「暴行」と聞いて思い浮かぶような行為態様にとどまらないことに注意が必要です。たとえば、体を押さえたり、着衣を引っ張ったりすることも「暴行」含まれます。
また、不意に股間に手を差し入れる場合のように(大判昭和8年9月11日新聞3615-11)、暴行自体がわいせつ行為に該当する場合であってもよいとされています。これに対し、単なる抱擁はわいせつ行為とはいえません(条解刑法)。
「脅迫」とは、害悪の告知のことをいい、どの程度の脅迫が必要なのかは争いがありますが、わいせつ行為が接触行為であればそれ自体暴行と解釈できるので、脅迫の程度が問題になることはあまりありません。なお、相手が13歳以上の場合、「暴行又は脅迫」が用いられる必要があるため、被害者の真意に戻づく承諾がある場合に本罪は成立しません(条解刑法)。
最後に、「わいせつな行為」について見ていきます。「わいせつ」とは、判例上、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいいます(最大判昭和32年3月13日刑集11-3-997)。具体的には、陰部に手を触れたり、手指で弄んだり、自己の陰部を押し当てることや、女性の乳房を弄ぶことなどが挙げられます。体を触る行為だけでなく、キスする行為もここでいう「わいせつな行為」に当たります。陰部や乳房を着衣の上から触れた場合については、単に触れるだけでは足りず、着衣の上からでも弄んだといえるような態様が必要です。
ただし、そこまではいえないと判断されても、現場によっては痴漢として条例違反になる可能性はあります。
強制わいせつ罪の法定刑は「6月以上10年以下の懲役」とされており、罰金刑の余地がないことや上限が10年と長いことから、比較的重い罪といえます。
準強制わいせつ
刑法第178条(準強制わいせつ)
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
次に準強制わいせつ罪について解説します。ポイントは「心神喪失」「抗拒不能」「わいせつな行為」の3語ですが、「わいせつな行為」は先ほどの解説のとおりですので、ここでは「心神喪失」「抗拒不能」について解説します。
「心神喪失」とは、精神的な障害によって正常な判断力を失った状態をいい、「抗拒不能」とは、心理的又は物理的に抵抗ができない状態をいいます(条解刑法)。
ワンナイトで特にトラブルになるのは飲酒酩酊による抗拒不能のケースです。ワンナイトは、会っていきなりホテルや自宅に行くのではなく、飲食店で飲酒をしてから行くケースが多く、また、ホテルや自宅の中でも飲酒をするケースが多いため、後から「泥酔していて抵抗できなかった」と被害申告される事態が生じやすいです。例えば、1人で自立歩行できなかったり、正常な会話が成り立たないくらい泥酔していた場合は、抗拒不能状態と認定される可能性が高いです。
準強制わいせつ罪も被害者の真意に基づく承諾があれば成立しませんが、準強制わいせつ罪が問題になる事案では、被害者は心神喪失又は抗拒不能の状態にあるため、性的行為の意味を理解する能力あるいは性的行為を承諾する能力が欠けていて、真意に基づく承諾があるとは認めがたいでしょう。
一方、被害者の承諾が仮になったとしても、あると誤信した場合には、故意がないため、犯罪が成立しません。ワンナイトでのトラブルが刑事事件になった場合、この誤信が認められるかどうかが問題になるケースが多いです。
準強制わいせつ罪の法定刑は「第176条の例による」との文言からわかるとおり、強制わいせつ罪と同じく「6月以上10年以下の懲役」とされています。「準」という文言が付いていることから通常の強制わいせつ罪より軽いと誤解しやすいのですが、決してそうではありません。
強制性交等・準強制性交等
刑法第177条(強制性交等)
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
続いて、強制性交等罪について解説します。ポイントは、「13歳」「暴行又は脅迫」「性交等」の3語です。順番に見ていきましょう。
まず、「13歳」について見ていきます。「13歳以上の者」に対しては、「暴行又は脅迫」という文言が要件になっているのに対して、「13歳未満の者」については、「暴行又は脅迫」という文言がなく、「性交等をした者も同様」とあります。つまり、先ほど挙げた強制わいせつと同様に、被害者の年齢が13歳以上か未満かによって、「暴行又は脅迫」の要否が変わるのです。
次に、「暴行又は脅迫」について見ていきます。これも先ほど挙げた強制わいせつにもあった文言ですが、反抗を著しく困難にする程度である必要があるとされており(最判昭和24年5月10日刑集3-6-171)、強制わいせつに比べると強い程度のものが必要になります。なお、相手が13歳以上の場合、被害者の真意に戻づく承諾がある場合に本罪は成立しない点は強制わいせつ罪と同様です。
最後に、「性交等」について見ていきます。これは条文の文言からわかるとおり、「性交、肛門性交又は口腔性交」を総称して「性交等」としています。この点、2017年の法改正前の強姦罪では「姦淫」という言葉を使っており、また、その対象は「女子」に限定されていました。しかし、肛門性交、口腔性交についても性交と同様に扱われるようになり、また、被害者も男女両方に拡大したことがポイントです。
強制性交等罪の法定刑は「5年以上の有期懲役」とされています。先ほど、強制わいせつ罪が比較的重い罪であると述べましたが、下限が5年以上であり、原則執行猶予を付けることができないことから、そこからさらに一段と重くなっていることがわかります。
最後に、準強制性交等罪について紹介します。これは準強わいせつ罪と強制性交等罪で解説した文言である「心神喪失」「抗拒不能」「性交等」がポイントであり、同じ説明になってしまうので、解説は省略します。
また、準強制性交等罪の法定刑も「前条」すなわち強制性交等罪の「例による」ため、「5年以上の有期懲役」とされています。
ワンナイトでも合意があったことを示す証拠
以上のとおり、ワンナイトで成立する犯罪はどれも法定刑が重いため、ワンナイトそのものがいけないというわけではありませんが、トラブルを未然に防ぐことは常に意識した方がよいです。そのためには、「暴行又は脅迫」「抗拒不能」と後で言われかねないような行為を慎むことは当然ですが、それだけでなく、当該性的行為が双方の合意の上で行われたことを示す証拠をできるだけ残すことが有益です。
先ほど、売買契約の例で解説したように、合意があったことを示す証拠は契約書に限られません。店舗での商品の売買のように、契約書を作ることが通常考えられないような状況では、周囲の状況から合意があったかどうかを判断します。ワンナイトに話を戻すと、メールやLINEなどのメッセージのやり取りが重視されます。
例えば、性的行為をした後日、別の事情で喧嘩が発生し、その腹いせに以前の性的行為について合意がなかったとして警察に被害申告された、というケースを想定しましょう。こうしたケースで、性的行為があった日から被害届が出されるまでの間に日数が空いており、そして、性的行為があった直後は仲良さそうにやり取りしているのに、その後別の事情で喧嘩したことがうかがえるようなメッセージのやり取りが残っていれば、警察も被害者の被害申告は虚偽ではないかと疑ってきちんと裏付け捜査を行ってくれる可能性が高いですし、検察も起訴には慎重にならざるを得ません。
他にも、性的行為があった場所の防犯カメラ映像も参考になります。例えば、性的行為があったホテルの入口の防犯カメラ映像を確認した際、双方が手をつないで仲良さそうにホテルに入っていったのか、それとも片方がもう片方を引きずるようにして入っていたのかでは、合意の有無に対する判断が変わってきますし、さらに飲酒酩酊による準強わいせつ・準強制性交等罪が問題となっているケースでは、抗拒不能状態といえるほどの酩酊状態にあったのかどうかの判断に被害者の歩き方が大きな考慮要素となります。
警察から連絡があったらどうすればいいか
警察から連絡が来た場合、焦ってメッセージのやり取りを消すなどの証拠隠滅行為に及ぶことは絶対にやめましょう。
証拠隠滅行為をすれば逮捕の可能性が上がるだけでなく、自分にとって不利だと勘違いして消した証拠が実は自分の無罪を証明できるものであった、ということも十分あり得ます。
一度冷静になり、上記のような合意があったことをわかってもらうための証拠として何があるか整理しましょう。とはいえ、何が使える証拠か適格に判断することは難しいです。最初に取調べに行く前に弁護士にアドバイスを受けておくことが望ましいでしょう。
逮捕された場合
ワンナイトのよるトラブルで警察に被害申告された場合、任意の取調べではなく、いきなり逮捕されることも考えられます。先ほど解説したとおり、該当し得る罪の法定刑が重いため、逮捕されれば勾留決定が出る可能性が高いです。しかし、逮捕・勾留されたからといって必ずしも起訴されるわけではありません。
実際、2020年の統計で強制わいせつの起訴率は2020年で33.9%、強制性交等の起訴率は37.0%となっており、3人に1人程度しか起訴されていないことがわかります。
出典: 検察統計調査 検察統計、被疑事件の罪名別起訴人員、不起訴人員及び起訴率の累年比較
合意があったとの主張をするのであれば、やはり冷静に、どこに何が残っているか、あるいは残っていそうかを捜査機関にきちんと説明しましょう。
ただし、逮捕状が出ている時点で、捜査機関としてはそれなりの証拠を集めています。もし合意があったとの主張をしても嫌疑不十分による不起訴が見込めない場合、示談交渉による起訴猶予を目指した方がよいです。このあたりの判断をご自身でするのは難しいため、弁護士とよく相談して決めましょう。
示談交渉を行う場合
嫌疑不十分による不起訴が難しいと判断し、示談交渉する場合、自分で交渉することには様々な困難が伴います。それは、逮捕・勾留されておらず、自分で動くことができる在宅事件の場合でも同様です。
特に、ワンナイトでのトラブルの場合、相手の住所や電話番号がわからず、SNSのDMしか連絡手段がないということが多いですが、警察に被害申告されているような事案では、ブロックされるなどしてDMを相手に送ること自体がもうできなくなっているか、仮に送ることができたとしても反応がないという可能性が高いと思われます。
しかも、相手が連絡を拒否しているのにもかかわらず、しつこく連絡したり面会を強要すると、今度はストーカー規制法違反になってしまう危険もあります。
したがって、ワンナイトでのトラブルで警察沙汰になった場合、示談成立のためには、自分でやみくもに行動するのではなく、早期の段階で弁護士に相談し、弁護士に示談交渉を依頼することが望ましいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ワンナイトは様々なトラブルが起こり得るものであり、そして、トラブルが刑事事件化した場合のリスクが大きいことはご理解いただけたかと思います。ワンナイトそのものが悪いというわけではありませんが、相手に合意があると自己解釈し、無理やり進めてしまうのはやめましょう。
万が一トラブルになった場合は、どのような主張をするとしても、できるだけ早めに弁護士にご相談ください。刑事事件強い弁護士があなたにとっての最善策を提案します。
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