この記事にたどり着いた方の中には、突然、警察から「あなたを占有離脱物横領罪で捜査しています。一度警察で話を聞かせてもらえませんか」などと連絡を受けた方もいるのではないでしょうか。占有離脱物横領罪とはどんな罪に問われるのか、弁護士に相談した方がいいのか、などと不安を感じていることと思います。
この記事では、占有離脱物横領罪とはどのような罪か、その時効、占有離脱物横領罪と似たような罪にはどのようなものがあるかなどについて解説していきます。
占有離脱物横領とは
占有離脱物横領罪とは、刑法254条で以下のように定められています。
刑法第254条(遺失物等横領)
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
「遺失物」とは、占有者の意思に基づかずに占有を離れ、何人の占有にも属していない物をいいます。
「漂流物」とは、遺失物のうち水面又は水中にあるものをいいます。条文の書きぶりからすると、「遺失物」や「漂流物」というのは、「占有を離れた」他人の物の例示となっています。
「占有を離れた他人の物」(占有離脱物)とは、占有者の意思に基づかずに占有を離れ、何人の占有にも属していない物、及び、他人の委託に基づかずに行為者が占有するに至った物をいいます。例えば、前者(占有者の意思に基づかずに占有を離れて、他人の占有にも属していない物)の例としては、道端に落ちている財布、乗り捨てられた自転車などが考えられます。
後者(他人の委託に基づかずに行為者が占有するに至った物)の例としては、風で飛んできた隣の家の洗濯物や、宅配便の人が誤って配達した荷物などが考えられます。
「横領」とは、不法領得の意思をもって占有離脱物を自己の事実上の支配内に置くことをいいます(大判大6.9.17)。
占有離脱物横領罪の例として、拾った財布を自分の物にする、落ちていたコンサートのチケットを使ってコンサートを見に行く、自分の家に誤って配達された食品を食べてしまうなどが挙げられます。
占有離脱物横領罪の時効
占有離脱物横領罪の時効は、3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。
つまり、占有離脱物横領罪に該当する行為を行ってから、3年が経過すると公訴時効が成立するので、検察官は、起訴することができなくなります。
もっとも、犯罪が発生してから時間が経過すればするほど、証拠が散逸していくのが通常です。したがって、占有離脱物横領罪として検挙される場合には、事件を起こしてから、数日~半年以内、遅くとも1年以内に、警察から連絡が来ることが多いです。
占有離脱物横領と他の犯罪の違い
占有離脱物横領罪と類似した犯罪には、どのようなものがあるでしょうか。
似た犯罪としてよく挙げられる、占有離脱物横領罪、横領罪、窃盗罪について、何が犯罪成立の分かれ目かを見ていきましょう。
横領
まず、占有離脱物横領罪と、横領罪の条文を見比べてみましょう。
刑法第254条(遺失物等横領)
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。刑法252条(横領)
1 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
条文を見比べてみると、両罪とも「横領」という言葉が使われていることが分かります。
両罪の違いは、占有離脱物横領罪の対象は、「遺失物、漂流物その他占有を離れた」他人の物であるのに対して、横領罪の対象は、「自己の占有する」他人の物です。
横領罪の対象である「自己の占有する」他人の物について、「占有」とは、物の所有者又はこれに準ずる者との間の委託信任関係に基づくものであることをいいます。
先ほど、占有離脱物横領罪における「占有を離れた」他人の物(占有離脱物)とは、占有者の意思に基づかずに占有を離れ、何人の占有にも属していない物、及び、他人の委託に基づかずに行為者が占有するに至った物をいう、と説明しました。
つまり、対象物が、委託信任関係に基づいて占有がなされている場合には横領罪、委託信任関係に基づかずに占有するに至った場合には占有離脱物横領罪が問題となります。例えば、友人から高級な腕時計を預かっていたような場合、これは委託信任関係に基づいて占有がなされている状態ですから、これを勝手に売却してしまうと、横領罪が成立します。
窃盗
次に、占有離脱物横領罪と、窃盗罪の条文を見比べてみましょう。
刑法第254条(遺失物等横領)
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。刑法第235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
条文を見比べてみると分かるように、両罪の違いは、占有離脱物横領罪の対象は、「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物」であるのに対して、窃盗罪の対象は、「他人の財物」です。
窃盗罪の対象である「他人の財物」とは、他人の占有する財物、のことをいいます。先ほど、占有離脱物横領罪における「占有を離れた」他人の物(占有離脱物)とは、占有者の意思に基づかずに占有を離れ、何人の占有にも属していない物、及び、他人の委託に基づかずに行為者が占有するに至った物をいう、と説明しました。つまり、両罪の区別は、対象となる物に「他人の占有が及んでいるか否か」によってなされます。
例えば、他人のポケットに入っている財布には、他人の占有が及んでいますから、これを盗ることは窃盗罪に当たります。他方、道端に落ちている財布には、誰の占有も及んでいないことから、これを盗ることは占有離脱物横領罪に当たります。もっとも、他人の占有が及んでいるかいないか、というのは様々な事情を考慮して総合的に判断されるので、ケース判断になることがあります。
自分のしてしまった行為が、占有離脱物横領罪に当たるのか、別の罪に当たるのか、という判断が難しい場合もあります。また、警察や検察が別の罪名で捜査をしているものの、実は占有離脱物横領罪に当たるのではないか、ということもあります。何の罪に当たるのか、という専門的な判断は、弁護士に相談することをお勧めします。
占有離脱物横領罪で逮捕されるか
警察庁が公表している「犯罪統計書 令和2年の犯罪」によると、令和2年に占有離脱物横領罪として検挙された件数は10,992件です。そのうち、現行犯逮捕された件数は15件、通常逮捕された件数は443件です。逮捕されなかった件数は10,534件です。このように、占有離脱物横領罪の約95%が逮捕されずに捜査されていることが分かります。
もっとも、占有離脱物を何件も行っている、被害額が過大、警察からの呼び出しに応じない、などの場合には、逮捕される可能性が高まりますので、注意が必要です。
逮捕の流れ
占有離脱物横領罪で逮捕された場合には、まず、警察から弁解録取手続(刑事訴訟法203条1項)や取調べを受けることになります。そして、逮捕者の身柄は、逮捕されてから48時間以内に警察署から検察庁に送致されます。検察官が、引き続き身体拘束をする必要があると判断した場合には、検察庁に送致されてから24時間以内に、裁判所に対して勾留請求がされます。この間の最大72時間の間は、基本的には家族であっても面会することができませんが、弁護士であれば面会することができます。
その後、裁判所によって検察官の勾留請求が認められ、勾留決定がなされると、最長20日間にわたる勾留がなされます。最長20日間も身体拘束を受けることになると、学校や会社に行けなくなるなど、日常的な不利益が大きく、その後の生活にも大きな影響を与えます。しかし、弁護士に依頼することで、家族などの身元引受人を用意したり、釈放後の生活環境を調整したりするなど、早期の釈放を目指した弁護活動を行うことができます。
もし、ご家族が占有離脱物横領罪で逮捕されてしまった場合には、なるべく早い段階で弁護士にご相談ください。逮捕されてから勾留決定がされるまでには、最大72時間という厳しい時間制限があり、この制限の中で、身体拘束からの解放を目指すためには、迅速な弁護活動が要求されます。
また、残念ながら勾留決定がされてしまった場合でも、被害者との間で示談を成立させることで、勾留満期前の釈放を目指した弁護活動をすることができます。
初犯でも実刑になるか
先ほど、占有離脱物横領罪の条文をご紹介しましたが、占有離脱物横領罪の法定刑は「一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料」(刑法254条)です。
確かに、占有離脱物横領罪は犯罪ではありますが、法定刑がそれほど重くは定められておりません。したがって、初犯で実刑になる可能性はそれほど高くないとはいえます。
初犯であっても、占有離脱物横領を何件も行っているような場合や、被害額が過大であるような場合には、実刑になる可能性も出てきます。したがって、占有離脱物横領を行っても、初犯だから大したことないだろうと甘い見通しを持つのは危険です。占有離脱物横領を起こしてしまったら、弁護士に相談をして、適切な対応を検討することが必要です。
占有離脱物横領罪の弁護活動
占有離脱物横領罪は、基本的には物の持ち主が被害者として、被害届を出すことになります。ですから、被害者に対して、きちんと賠償等の示談交渉を行うことが必要です。
一般的に、被害者は犯人に対して、怒りや恐怖心を持っていることが多く、犯人に連絡先を教えたくないと考えることも少なくありません。なので、当事者同士での示談交渉が困難なことも多く、第三者かつ法律の専門家である弁護士に依頼することで、被害者との間で示談交渉が行いやすくなることがあります。
被害者に対しては、物そのものの被害弁償に加え、警察沙汰になってご迷惑をおかけしたことに対するご迷惑料等も併せてお支払いすることがあります。また、示談交渉に加え、事件に対する反省の気持ちや、もう二度と占有離脱物横領をしないためにどのような再犯防止策を取るかなどの有利な情状を、弁護士から検察官に適切に伝え、不起訴を目指した活動を行うことができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。占有離脱物横領罪について、理解を深めることはできましたでしょうか。
占有離脱物横領罪に当たる行為を行ってしまった、という方は、自分が今後どうすべきかについて、弁護士に相談することで、適切なアドバイスを得ることができます。少しでも不安なことがあれば、すぐに弁護士に相談することをお勧めします。