千葉で痴漢・盗撮で逮捕されたら弁護士へご相談を
千葉県には公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(以下「千葉県迷惑防止条例」といいます。)というものがあり、これに違反すると逮捕・起訴され、刑罰を受ける可能性があります。
刑法の殺人罪(刑法第199条)など、誰でも知っている犯罪ならば、内容がイメージしやすいかと思います。
痴漢・盗撮が犯罪ということは駅のポスターなどで周知されておりますが、実際どういった行為が千葉県内で痴漢・盗撮に当たるのかについてきちんと把握している人は、あまりいないのではないでしょうか。
そこで、千葉県迷惑防止条例のうち、痴漢・盗撮に関する部分を解説し、逮捕された場合の対処法を弁護士・山口亮輔がご紹介いたします。
千葉県迷惑防止条例とは
千葉県迷惑防止条例とは、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて県民生活の平穏を保持することを目的とする」条例です(同条例第1条)。
簡単に言えば、県民に対する迷惑な行為を禁止して、市民生活を守るためにある条例です。
千葉県迷惑防止条例は全18条から構成され、その内、第3条から第12条までが規制される行為について定めていますが、今回は、その内、卑わいな行為の禁止(同条例第3条の2)について解説します。
千葉県迷惑防止条例第3条の2
何人も、みだりに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次の各号に掲げるものをしてはならない。
第1号 次のいずれかに掲げる場所又は乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器(衣服を透かした状態を撮影することができるものを含む。以下「写真機等」という。)を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機等を差し向け、若しくは設置すること。
イ 浴場、更衣室、便所その他の人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所及び住居
ロ 公共の場所(イの場所を除く。)又は公共の乗物
ハ 学校、事務所その他の不特定若しくは多数の者が利用し、若しくは出入りすることができる場所(イ及びロの場所を除く。)又はタクシーその他の不特定若しくは多数の者が利用することができる乗物(ロの乗物を除く。)
第2号 公共の場所又は公共の乗物において、人の胸部、臀部、陰部、大腿部その他の身体の一部に直接又は衣服その他の身に着ける物の上から触れること。
第3号 前各号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
まず、1号では人の下着・身体を写真機等を用いて撮影すること又は撮影する目的で写真機等を差し向け、もしくは設置することを禁止しています。
これがいわゆる盗撮行為です。
ポイントは、実際に撮影していなくても、カメラを設置したり向けたりした時点で盗撮行為に当たることです。
盗撮の相談に来られる方の中には、「カメラを向けたが撮影はしていなかった」という弁解をされる人が時々いますが、この弁解は通用しません。
「撮影したデータが残っていなければ大丈夫」などと安易に考えるのは絶対にやめましょう。
続いて、1号イからハを見ていきましょう。ここでは、盗撮行為が規制される場所が規定されています。
ロでは「公共の場所又は公共の乗物」と抽象的な書き方になっているのに対し、イでは「浴場、更衣室、便所その他の人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所及び住居」、ハでは「学校、事務所その他の不特定若しくは多数の者が利用し、若しくは出入りすることができる場所又はタクシーその他の不特定若しくは多数の者が利用することができる乗物」と具体的な書き方になっています。
その背景には、小型薄型で高性能なスマートフォンの普及等により、盗撮被害が、学校、事務所、さらには住居の浴室、トイレ等、プライベートな場所においても発生するなど、条例では規制されていない場所にまで及んだことから、近年の改正で書き加えられたという経緯があります。
次に、2号では人の胸部、臀部、陰部、大腿部その他の身体の一部に直接又は衣服その他の身に着ける物の上から触れることを禁止しています。
これがいわゆる痴漢行為です。強制(不同意)わいせつ罪との違いについては、後ほど詳しく見ていきます。
最後に、3号では前各号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすることを禁止しています。
すなわち、「盗撮」や「痴漢」以外の、人を著しく羞恥させ、又は不安を覚えさせるような行為については、「卑わいな言動」で規制しているのです。例えば女性のスカート内を覗き見る行為や、卑わいな性的発言をする行為等が該当します。
刑法犯と条例違反の違い
刑法犯の強制(不同意)わいせつと条例違反の痴漢の違いについて整理しましょう。
刑法の強制(不同意)わいせつ罪は次のように規定しています。
刑法第176条(不同意わいせつ 旧:強制わいせつ)
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。⇒令和5(2023)年の刑法改正により、条文も新たになりました。
同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
まず、強制わいせつ罪は13歳未満の男女を相手にする場合、条例違反の場合と同じく暴行・脅迫は不要ですが、13歳以上の男女を相手にする場合は、暴行・脅迫が要件となります。
もっとも、「暴行」と聞くと暴力的な行為をイメージされると思いますが、ここでいう「暴行」はそれに限りません。
これについて、裁判例は、「強制わいせつ罪の暴行は、被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制するもので足りるから、トイレ内で被害者の背後から左手でその臀部を(服の上から)なで回す行為が、わいせつ行為であるとともに強制わいせつ罪の暴行に当たると解され」ると判示しています(名古屋高裁平成15年6月2日判決)。
つまり、別途暴力をふるわなくとも、わいせつ行為そのものが「暴行」に当たり得るということになり、暴力の有無が強制わいせつと痴漢の明確な違いとはいえないということになります。
次に、強制(不同意)わいせつ罪と条例違反は衣服等の上からでも身体を直接触っても成立し得ますが、一般的に身体を直接触った場合は強制(不同意)わいせつに当たることが多いです。
しかし、衣服等の上からの場合は、判断が難しく、実際のところは過去の例に照らしてどちらが適切か個別に検討することになります。
当初強制わいせつ罪で検挙されたのに、処理罪名が迷惑防止条例違反に変更されたというケースも珍しくありません。
罪名を争う余地があるかどうかについては、実務経験がないと判断が難しいため、弁護士に相談することをおすすめします。
さらに、刑法犯には場所の限定がないのに対し、条例違反は場所が限定されます。
ただし、先ほど解説しましたとおり、近年の改正で条例違反に該当する場所も拡大したため、現在はさほど大きな差ではなくなったといえます。
罰則も当然違います。強制(不同意)わいせつ罪の場合は、6月以上10年以下の懲役と懲役刑しか選択肢がないのに対し、条例違反の場合は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(同条例第13条の2第1項2号)と懲役刑の上限が短い上に、罰金刑の余地がある点が大きく異なります。
懲役刑しか選択肢がない犯罪の場合、起訴されれば必ず正式裁判になりますが、罰金刑が選択肢にある犯罪の場合、実務上は略式起訴となることが多いため、公開の法廷で裁判を受ける可能性が低い点も大きな違いになります。
千葉県での送致数・検挙数
千葉県警察本部が公表している「犯罪の概要 犯罪統計」によると、令和3年中に、迷惑防止条例違反で送致された件数は387件となっています。
また、盗撮に関しては令和2年7月に規制場所を拡大した改正迷惑防止条例が施行されたことから、令和2年は前年に比べて盗撮の検挙件数が1.6倍に増加しています。
千葉県迷惑防止条例に違反するとどうなる
令和2年7月、千葉県職員が、駅の階段で女性のスカート内を盗撮した疑いで任意同行を求められ、罰金30万円の略式命令を受けています。
県の聞き取りに対し、「性欲を満たすためにやった」と述べ、これまでに10件前後、同様の行為を行ったと本人が話しているということです。
この職員は、前述の罰金30万円の他に、職場である千葉県から停職3か月の懲戒処分を受けています。
「罰金刑」と聞くと、お金を払って終わり、という軽いイメージもありますが、この事件はネットニュースになっていることや、職場から停職という重い懲戒処分を受けていることから、罰金を支払うのみならず、職場での社会的信用は失われることとなります。
さらにいえば、公的な処分は停職処分であったとしても、実際には依願退職となっているケースが多く、罰金額自体はさほど高額でなくとも、失職という重大な不利益を受けることが十分に考えられます。
逮捕から起訴までの流れ
千葉県迷惑防止条例違反で逮捕されますと、まず警察で最長48時間留置(身柄を留置場で拘束されること)され、取調べが行われます。
その後、検察官に身柄と書類が送られ、身柄受領から24時間以内(ただし、逮捕から72時間以内)に、検察官が裁判官に勾留請求するか判断しますが、実務上は多くのケースで勾留請求されています。
勾留請求が認められてしまうと、原則として10日間、勾留延長請求が認められれば、さらに10日間、計20日間身柄拘束され、逮捕の日から合わせて最大23日間、家に帰ることや職場に出勤することができなくなりますが、弁護活動を行わないと、実務上は多くのケースで勾留請求が認められます。
その場合、家族や職場に自らが罪を犯してしまったことを知られてしまう可能性が非常に高くなります。
上記の身柄拘束期間を経て、収集した証拠や示談状況等踏まえ、検察官が起訴するか否かを決定し、起訴された場合、ほぼ100%有罪判決は免れられず、前科がついてしまうこととなります。
千葉県迷惑防止条例違反で逮捕された際の対処法
逮捕・勾留の回避
まず、逮捕期間中に一刻も早い身柄解放への働きかけが重要です。
そのためには、事件の詳細を把握するために、逮捕された本人とコンタクトをとる必要がありますが、逮捕後72時間の間においては、基本的にご家族であっても面会することができません。しかし、被疑者(この場合には逮捕された本人)は、接見交通権を有しており、弁護士とは面会でき、弁護士が何かを差し入れすることも可能です(刑事訴訟法第39条第1項)。ですから、早急に本人の状態を確認したい、といった場合には、その日のうちに接見(面会)に行ってくれる弁護士に相談することが必要であるといえます。
そして、検察官の勾留請求がなされた場合は、裁判官が判断する前に勾留請求却下を求める意見書を提出することが重要です。この意見書提出はとにかくスピード勝負になるため、慣れている弁護士でなければとても間に合いません。経験のある弁護士、それもできれば勾留請求却下の実績がある弁護士にいち早く依頼することを強く推奨します。
仮に勾留請求が認められた場合でも、弁護士に依頼し、弁護人がついた場合には、早急に勾留決定に対する準抗告(異議申立て)を行います。ただし、準抗告は、一度裁判官が下した勾留決定の覆しを求める手続になるため、準抗告が認められる可能性は低いといえ、間に合うのであればやはり勾留請求段階で却下を求める意見書を提出することを推奨します。そして、無事釈放されたとしても事件は終結とはならず、在宅捜査で事件は継続します。
被害者との示談
弁護人は、被害者との示談交渉を試みます。
千葉県迷惑防止条例違反で検挙されるケースでは、多くの場合、特定された被害者がいます。そして、被害者と示談を行いたいと被疑者本人が望んだとしても、多くの場合それはかないません。
なぜなら、被害者は、被疑者(被害者にとっては加害者)と「関わりたくない」「関わるのが怖い」という感情が強く、連絡先を直接教えてもらうことができず、接触が困難だからです。しかし、弁護人を通じてであれば、被害者も、被疑者本人ではない分感情が和らぎ、検察官を通じて弁護人と接触を図り、示談交渉に応じてくれる可能性が高くなります。
性犯罪の示談交渉は、多くの場合、被害者あるいはその親権者と直接交渉することになるため、事前に準備できることには限界があり、その場その場での臨機応変な対応が求められます。ところが、弁護士の中には普段の業務のほとんどが書面作成である人が少なくないため、こうした示談交渉には苦手意識を持っている弁護士も少なくありません。やはり、示談交渉経験や解決実績が豊富な弁護士に依頼することを強く推奨します。
検察庁への働きかけや被疑者の更生
不起訴処分獲得に向けて、検察庁への働きかけを行います。
具体的には、示談成立を報告し、被疑者が真摯に反省していることを伝えるための意見書を提出します。
前述の示談交渉の過程を含め、中村国際刑事法律事務所では、被疑者に対し、表面的な反省を促すのではなく、被疑者が犯した罪について、被害者の感情としっかりと向き合い、もう二度と同じ罪を犯さないように何をすべきか、どのような生活を送るべきかを弁護士が一緒に考え、実行できるようにしていきます。中には性嗜好障害が疑われるケースがあり、医師・心理士などのサポートを要する場合があり犯罪の要因に真摯に取り組み、二度と同じ罪を犯さないようにすることも、不起訴処分獲得のための一部であると考えています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。「条例違反」と聞くと、一般的な刑法犯より軽く捉えがちですが、れっきとした「犯罪」です。
犯してしまった以上、一刻も早く対処しなければ、社会的信用の失墜にとどまらず、失職の可能性もあり、何より前科となる可能性があり、今後の生活にも大きく影響があります。
「千葉県迷惑防止条例違反」の罪を犯してしまったら、まずは中村国際刑事法律事務所の弁護士にご相談ください。
盗撮や痴漢などの条例違反の弁護経験豊富な弁護士が的確な助言を行います。
そして、ご依頼された場合には、早急に示談交渉等に取り組み、不起訴処分獲得に尽力いたします。
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当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
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