傷害罪がどのような罪かををご説明した上で、初犯の方が傷害罪の事件を起こしてしまった場合の見通しを弁護士・中村勉が解説いたします。
傷害罪の内容や初犯で実刑となるかを弁護士が解説
お酒の勢いで、普段は言わないようなことを言ってしまったり、記憶にない振舞いをしていたという経験がある人は珍しくないのではないでしょうか。アルコールの影響というのは侮れません。
当事務所にも、酔った勢いで知人やその場に居合わせた知らない人と口論になってつい相手に手を出して怪我をさせてしまったがそのときのことを殆ど覚えていないというような、お酒の影響による事件のご相談が多くございます。
普段はおとなしい方でも、様々な事情から激しい怒りや悲しみなどの感情から、咄嗟に手を出してしまうということがあります。夫婦間で口論中、つい頭にきて手を出して怪我をさせてしまう、というような事案はその典型例です。コロナ禍で外出や飲酒の機会は減りましたが、そのストレスで普段よりもカッとなりやすくなったというような人は多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染防止予防対策としての在宅勤務の普及により、自宅での夫婦や家族との時間が増えることによって夫婦仲・家族中がよくなったという家庭もある一方で、一人で息抜きする時間がなくなり反対にストレスが増えて喧嘩が増えたという家庭もあると言われます。このような環境の中、つい相手に手や足を出して怪我をさせてしまったという事例も増えているかもしれません。
このような身近な犯罪ともいえる傷害事件ですが、これまで犯罪に関わったことがなく前科前歴のないいわゆる「初犯」の方でも、起訴されて裁判になったり、刑務所に行ってしまったりするのでしょうか。
傷害罪とは
傷害罪は刑法第204条に定められている犯罪です。
刑法第204条
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
「傷害」という言葉からも容易に想像できるとおり、傷害罪の代表的な例は故意に相手に怪我をさせることですが、最近では犯行により相手がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患うに至ったケースなど精神的疾患を発症させてしまった場合にも他人の生理的機能を害したとして傷害罪に問われる例が見られます。
なお、怪我をさせる方法は、素手や鈍器、刃物等色々考えられますが、刃物を用いている場合には、相手を死なせる認識があったのではないか、つまり殺意があったものと疑われる可能性があります。そうすると、傷害罪にとどまらず、殺人未遂罪(刑法第203条、第199条)に問われることがありますので、要注意です。
このように傷害罪は他人に怪我をさせた場合が典型例ですが、暴力を振るったものの怪我までは至らなかったという場合には暴行罪が成立します。暴行罪は暴行を加えた者が「人を傷害するに至らなかったとき」に問われる罪で、傷害罪より軽い法定刑が定められています(刑法第208条)。
刑法第208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
例えば、相手の頬を叩いたものの、特にあざ等が残らなかった場合には暴行罪に問われることになります。また、例えば、相手の顔を殴って、相手の顔は腫れたりしたものの、相手が特に病院へ行って診断書をとったり、自分で殴られた直後の顔の写真をとったりしておらず、その後すぐ治癒したというように、実際には傷害のケースであるものの傷害結果についての証拠がない場合にも、傷害罪ではなく暴行罪に問われることになるでしょう。
傷害事件の処罰・量刑はどうなるか
傷害罪の法定刑は先ほど挙げた条文に書かれているとおり、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。これに対し、暴行罪の法定刑は重くても2年以下の懲役で、軽くて科料(千円以上一万円未満、刑法第17条)となっています。傷害罪につき、50万円以下の罰金から15年という長期の懲役まで幅広い法定刑が定められているのは、傷害の結果には大きな幅があるからです。すなわち、傷害の結果にはかすり傷程度の軽微なものから、相手が大出血したり骨折したり、後遺症が残ったりするなど重いものまであります。
軽微な傷害事件ですと、被害者との示談が成立していれば多くの場合において不起訴となります。軽微な傷害事件で被害者との示談が成立していない場合には罰金となるケースが多いです。
罰金の場合、その額は20万円から50万円程度となることが多いです。軽微な事案で、被疑者が罪を認めており、正式裁判とすることなく処罰を受けることに同意する場合には、略式手続といって、検察官が簡易裁判所に公訴を提起し、裁判官が書面審理によって有罪無罪を決めて罰金刑を科すという簡易な手続がとられます。軽微な傷害事件で示談が成立しておらず、被疑者が罪を認めて略式手続に同意する場合には、略式手続による罰金刑となることが多いです。
一方で、同種の前科がある場合には、たとえその傷害事件における傷害結果自体が軽微なものであったとしても、犯罪性向が深化しているとされ、公判請求されることも十分に考えられます。また、傷害の結果が重いと検察官は罰金刑ではなく懲役刑が相当と考えることがあります。この場合、略式手続によって刑罰を科すことはできませんので、検察官は正式起訴して裁判所に公判請求をします。この場合、裁判では検察官が懲役刑を求刑する可能性が高く、判決も懲役刑となる可能性が高いです。
検察官が求刑できる懲役刑の年数は、傷害罪では1年から15年の幅がありますが、執行猶予がつくのは3年以下の懲役刑のみになりますので、検察官が3年を超える求刑をした場合には、裁判官がこれに対して3年以下の懲役が相当と考えない限りは執行猶予がつく可能性はないといえます。もちろん、裁判官が3年以下の懲役が相当と考えたとしても、執行猶予がつくとは限りません。実際、10月や1年の懲役刑でも執行猶予がつかず、実刑になっているケースは多くあります。
傷害事件の初犯でも弁護士が必要
以上述べてきたように、傷害罪の事案では、初犯でも前科がつく可能性があります。
一般的には、前科をもっている人による犯行と比べ、初犯の人による犯行は刑罰が軽くなるイメージがあるか思います。傷害事件の初犯であれば、重くても罰金で懲役刑になることはないのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、先ほども述べた通り、傷害の結果が重いと初犯であっても罰金刑では済まない可能性が高くなります。
傷害罪の初犯で、かつ、相手の怪我がかすり傷程度だとすると、略式罰金で済む可能性が高いですが、罰金も刑罰ですのでこれを科されたということはれっきとした前科となります。前科がつくと、たとえば、就職や転職の際の履歴書に「賞罰」欄があった場合に、そこには「有」と書かざるを得なくなります。また、海外渡航の際、国によっては入国審査が厳しくなることも考えられます。したがって、このような不利益を避けるためには、やはり前科を回避するためのきちんとした弁護活動が必要となってきます。
前科を避けるために大切な弁護活動は被害者との示談交渉です。検察官が起訴するかどうかを決める際には、被害者の被害感情がどのようなものであるかを考慮します。被害者が被疑者の厳罰を求めている場合には、その意向を尊重して何らかの処罰を被疑者に与えなければいけないと検察官は考えます。一方で被害者が被疑者の処罰をもはや求めていない場合には、不起訴とする事が多いのです。
不起訴処分を得て前科を回避するには、弁護士が誠意をもって被害者との示談交渉を行い、被害弁償を行う代わりに被疑者が被告人を許して刑事処罰を求めない旨の示談が成立していることが大切なのです。通常、被害者は加害者との直接の接触を嫌がりますので、弁護士なしでは被害者と示談交渉をすることは非常に困難です。ですので、傷害事件の初犯でも罰金を避けるためには弁護士が必要です。
また、傷害事件は被疑者が初犯の場合も含め、約半数が逮捕され、逮捕された傷害事件の約9割がその後勾留されます。一度勾留が決定されると、略式罰金が予想されるような軽微な事件であったとしても、検察官が勾留請求をした日から最長20日間勾留が続く可能性があります。その間、職場や学校を休むこととなりますが、長期間休むことによる不利益は計り知れません。また、外部との連絡は弁護士との接見か、一日一回15分程度に制限されている家族等との面会を通してしかとることができませんので非常に不便です。
このような勾留を回避または解くためにも刑事事件に精通した弁護士による弁護活動が欠かせません。因みに、中村国際刑事法律事務所において、傷害罪を含めたすべての取り扱い事件における勾留請求却下件数は78件です(平成28年1月から令和3年12月までの統計)。
とはいえ、一度逮捕されると、その後の勾留率は非常に高いものとなっていますので、できる限り逮捕自体を避けたいものです。逮捕される前にあらかじめ弁護士に相談することができる場合には、お早めにご相談ください。中村国際刑事法律事務所では、事案により、弁護士が警察署へ同行し、自首の間警察署で待機するといった自首同行も行っています。
なお、勾留されている事件においては、検察官は通常勾留満期日までに起訴するか不起訴にするかの判断をしますので、不起訴の可能性を高くするためには、その数日前までには被害者との示談を成立させることが重要となってきます。その点からも、初犯の傷害事件では刑事事件に精通し、スピード感をもって被害者との示談交渉を含む弁護活動をしてくれる弁護士が必要といえます。
被害者の示談が早く成立すれば、勾留満期日を待たずに早期釈放されることもあります。検察官が起訴した後に被害者との示談が成立しても、起訴が取り消されることはありませんので、弁護士を早くつけるのに越したことはありません。
上述したとおり、傷害罪の刑罰には、重い傷害結果を踏まえた15年以下の懲役という重い刑罰も定められていますので、重い傷害結果となれば、初犯とはいえ罰金では済まず、公判請求される可能性が高くなります。
特に、重い傷害結果に加え、犯行態様が悪質であると、公判請求を避けるのは非常に難しくなってきます。ただ、この場合にも検察官による公判請求前に被害者との示談が成立すれば、不起訴になる可能性が出てきます。犯行態様が悪質な傷害事件ですと、被害者の処罰感情が非常に強いことが予想されますので、被害者の気持ちに配慮した弁護活動ができる弁護士に依頼することがポイントとなります。
前科の記録が一般に公開されることはありませんが、公判請求されるとなると、略式罰金と異なり、傍聴人のいる公の法廷で裁かれることとなり、名前も起訴罪名と共に法廷の前に貼り出されます。もちろん判決も公の法廷で言い渡されますので、有罪判決を言い渡された場合には、前科を公開されたのと同じような状況となってしまいます。したがって、初犯の傷害事件であっても、公判請求を避けるためにできる限りのことをすべきです。
初犯であれば、たとえ公判請求されたとしても、執行猶予がつき実刑を免れる、という考えは誤りです。犯行態様の悪質性や傷害結果の重大性、被害者に対する賠償の有無、本人の反省態度等によっては初犯であっても実刑となる可能性があります。
実際、駅員に対して、その胸部を両手で突き飛ばし、さらにその顔面を1回頭突きするなどの暴行を加え、また、両腕を掴んできた駅員を身体をひねるなどしてその場で投げ倒し、駅員に全治1週間を要する左胸部打撲、左眼周囲打撲、左腰部打撲等の傷害を負わせたという事件において、その事件が初犯であった被疑者が懲役10月の実刑の言渡しを受けたという例が存在します。
他にも、被害者に対して、その顔面を拳骨で殴ったり、膝で蹴ったり、その左腰部等を刃物で数回突き刺したりする暴行を加えて、加療約30日間を要する左腰部刺創による腸間膜損傷、結腸穿孔、腹膜炎等の傷害を負わせた事件において、その事件が初犯であった被疑者が懲役2年6月の実刑の言渡しを受けたという例が存在します。
初犯だからといって、最初から弁護士をつけずにいると、被害者に対して謝罪をしたり、示談交渉をしたりする重要な機会を失い、自己の反省態度を公判で十分にアピールできず、実刑となってしまう可能性があります。実刑を避けるためにも、初犯であっても、早めに刑事事件に精通した弁護士に依頼することが重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
傷害事件は初犯でも逮捕・勾留されたり、略式罰金となったり、公判請求されて実刑となったりする可能性が十分にある事件です。
被害者のいる事件ですから、検察官による起訴・不起訴の判断、略式起訴・公判請求の判断、また、裁判所による実刑にするかどうかの判断等には、被害者の受けた被害の大きさやそれに対する賠償状況、被害者の処罰感情などが重要視されます。そのため、被害者との示談を通して被害者に対して謝罪をし、損害賠償をし、処罰感情を少しでも緩和させるという弁護活動が非常に重要になってくるのです。
加害者側からの謝罪を含むアプローチがないまま時間が経てば経つ程、被害者の処罰感情は悪化するものです。ですので、傷害事件においては初犯であっても早い段階で弁護士をつけ、被害者との間を取り持ってもらうことが大切です。
とはいえ、弁護士をつけるのに遅すぎるということはありません。傷害事件で立件されてしまったという方、傷害事件で逮捕されてしまった方のご家族は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
今すぐ無料相談のお電話を
当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
- 逮捕されるのだろうか
- いつ逮捕されるのだろうか
- 何日間拘束されるのだろうか
- 会社を解雇されるのだろうか
- 国家資格は剥奪されるのだろうか
- 実名報道されるのだろうか
- 家族には知られるのだろうか
- 何年くらいの刑になるのだろうか
- 不起訴にはならないのだろうか
- 前科はついてしまうのだろうか
上記のような悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。