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信書開封罪とは – 意外と知らない信書開封罪について弁護士が解説

他人宛の手紙を勝手に開封して読むことは、誰しも倫理的に問題のある行為だと想像されるでしょう。
実は、このような行為は「信書開封罪」という犯罪に当たり、罰せられる可能性さえあります。以下、弁護士・中村勉が解説いたします。

信書開封罪とは

信書開封罪は刑法第133条に規定されている罪です。

刑法第133条(信書開封)
正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

信書開封罪は、医師や弁護士等が業務上知った他人の秘密を漏らす秘密漏示罪と共に「秘密を侵す罪」として定められています。この名称からも分かるように、個人の秘密を保護することが目的です。

日本国憲法が、表現の自由の確保とプライバシー権の保護のため、「検閲の禁止」とともに「通信の秘密」をも保障していることからも分かる通り(日本国憲法第21条2項)、我が国において信書の秘密の保護は一般的に重要と考えられているのです。信書開封罪の罰則は、1年以下の懲役または20万円以下の罰金となっています。

日本国憲法第21条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

「信書」とは

「信書」とは、特定の人が特定の人に宛てて書いた、意思を伝達する文書を指します。一般的な手紙が信書に当たることは容易に想像がつくかと思います。
手紙以外にも、請求書や契約書、クレジットカードの明細書、招待状等も特定の人に宛てられた、意思を伝達する文書ですので「信書」に当たります。
一方で、新聞や雑誌、会報などの書籍類、折込チラシ、カタログ、リーフレットなどは「信書」にあたりません。

基本的に、信書は文書でなければならないとされ、文字またはこれに代わる符号を用い、永続すべき状態において、物体上に意思を表示したものと考えられていますが(大審院明治43年9月30日判決)、特定の人が特定の人に宛てて意思を伝達するために作成した文書ファイルをCD-R等に収めた場合に、これを信書と解する余地はあるでしょう。

信書開封罪によって罰せられる行為とは

信書開封罪は「封をしてある信書」を開ける行為を罰する犯罪です。封をすることで、信書の内容を外部から認識しえないようになり、信書が法によって守られる「秘密」となるのです。
封筒に入れて容易に開封できないよう糊付けしたりテープを貼ったりすれば封をしたといえますが、クリップで止めたりするだけでは封をしたとはいえません。

信書には該当するとしても、ハガキの場合には基本的に封がされていませんので、名宛人以外の人がハガキに記載されている内容を読んでも信書開封罪は成立しません。もっとも、剥離式になっているハガキについては封をした信書に当たります。そして、信書開封罪は封をしてある信書を「開け」ることによって成立しますので、仮に開けた上で中身を読まなかったとしても本罪が成立します。

反対に、もともと封がしてあった信書につき、名宛人等他人により封が解かれた後に、信書を読む行為には、信書開封罪は成立しません
信書開封罪の客体である信書は封がされていれば足り、郵便物である必要はありません。したがって、封さえされていれば、置き手紙や手渡しされた信書、直接郵便受けに入れられた信書等であっても、他人宛のそれを開封した場合には本罪が成立し得ます。

「正当な理由がない」ことが必要

封がされた信書を開けた場合でも、正当な理由があるときには信書開封罪は成立しません。
例えば、捜査機関が捜索差押許可状等の執行にあたり、法に則って郵便物を開ける場合(刑事訴訟法第222条1項、第111条)などです。
また、破産した場合、通常、裁判所により選任された破産管財人が破産者の財産を調査するため、破産者宛の郵便物は破産管財人に転送されることになりますが、この場合に破産管財人が破産者宛の郵便物を開ける行為についても正当な理由があるといえ、信書開封罪は成立しません(破産法第82条1項)。

未成年の子ども宛の信書を親権者が開封するような場合にも、監護権(民法第820条)の行使の範囲内として正当な理由があると認められるでしょう。
そのほか、宛名となっている人がそのとき事情を知っていれば開けることに同意するだろうと推定できる場合にも、正当な理由があると認められ得ます。

なお、自分の郵便受けに入っていた信書を当然に自分宛のものと思い込んだまま、宛名を確認せずに開封したところ、他人宛のものだということに後から気付いた、というような事案も考えられます。しかし、このような場合には、そもそも他人の信書を開封する故意がなかったとして、信書開封罪は成立しません。したがって、上述したような「正当な理由」がなくても罪には問われないことになります。

メールやLINEを盗み見る行為に信書開封罪は成立するか

メールやLINEも、特定の人から特定の人に宛てた意思を伝達するものと言えますが、物理的に封をすることはできず、信書開封罪が念頭に置いている信書には当たりません。
したがって、他人宛のメールやLINEのメッセージを盗み見る行為には信書開封罪は成立しません。たとえ未読のメールやLINEのメッセージを開いて既読にしてしまっても同様です。

なお、その盗み見る態様によっては、不正アクセス行為の禁止等に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という)違反となり、同法によって罰せられることがあり得ます。
例えば、インターネット上で他人のID・パスワードを入力して他人のメールアカウントに不正にログインする方法により、他人になりすまして他人宛のメールを閲覧した場合には、不正アクセス行為の禁止(不正アクセス禁止法第3条、第2条4項1号)に反したとして、3年以下の懲役または100万円以下の罰金を科せられる可能性があります(不正アクセス禁止法第11条)。

不正アクセス禁止法についてはこちらのコラムをご参照ください。

身近で起こり得る具体例

前述した未成年の子ども宛の場合は別ですが、夫婦や親子など家族の間柄であっても個人の秘密は保護されます。したがって、例えば、配偶者の不貞を疑って配偶者宛の手紙を勝手に開けた場合、信書開封罪に当たる可能性があります。
また、引っ越し先で前の住人宛に届いた郵便物を興味本位で開けてしまったような場合も、信書開封罪に当たり得ます。

信書開封罪は親告罪

信書開封罪は、親告罪という「告訴がなければ公訴を提起できない」犯罪です(刑法第135条、第133条)。
「公訴を提起」とは起訴のことで、被害者である差出人や宛名となっている人が告訴しなければ、検察官は起訴することができないことになっています。
したがって、告訴がない状況で捜査が始まることはほとんどありません。

信書開封罪に類似する犯罪

信書隠匿罪(刑法第263条)
他人の信書を隠匿する行為を罰する犯罪です。信書開封罪と同じく、郵便物である必要はありませんが、信書開封罪と異なり、封がされている必要はないので、ハガキも含まれます。
刑法第263条(信書隠匿)
他人の信書を隠匿した者は、六月以下の懲役若しくは禁錮又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

封がされている他人の信書を開封し、さらにこれを隠匿した場合には、信書開封罪と信書隠匿罪の2つの罪が成立することになります。

郵便開披等罪

日本郵便株式会社(以下「日本郵便」といいます)の取扱中に係る郵便物を開披、き損、隠避、放棄したり、受取人でない者に交付したりした場合に成立する犯罪です。「取扱中に係る」という要件がありますので、信書開封罪、信書隠匿罪等と比べると、より件数は少ないでしょう。ただ、刑罰はこれらの犯罪より重いものが定められています。

郵便法第77条(郵便物を開く等の罪)
会社の取扱中に係る郵便物を正当の事由なく開き、き損し、隠匿し、放棄し、又は受取人でない者に交付した者は、これを三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。ただし、刑法の罪に触れるときは、その行為者は、同法の罪と比較して、重きに従つて処断する。

なお、郵便開披等罪が成立する場合には、信書開封罪や信書隠匿罪は成立しません。

信書の秘密を侵す罪

日本郵便の取扱中に係る信書の秘密を侵した場合に成立する犯罪です。刑罰が信書開封罪よりもやや重くなっているのは、憲法上保障された通信の秘密の確保のため、信書の送達は日本郵便の独占事業とされているところ(郵便法第4条2項)、そのような日本郵便が取扱中の信書の秘密を侵す行為はより重く罰すべきとの考えからでしょう。

郵便法第80条(信書の秘密を侵す罪)
会社の取扱中に係る信書の秘密を侵した者は、これを一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 郵便の業務に従事する者が前項の行為をしたときは、これを二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

逮捕されるおそれはある?

信書開封罪で逮捕されるおそれはありますが、比較的軽微な犯罪の部類に入るため、逮捕の可能性自体はそれほど高くありません。とはいえ、その態様の悪質性等によっては、逮捕される可能性が高くなることもありますので、他人の信書を故意に開封してしまった場合にはお早めに弁護士にご相談ください。

逮捕されないにしても、被害者が被害申告ないし告訴をし、警察や検察などの捜査機関から呼び出されて任意に取調べを行われる等、刑事事件としての手続が進行している場合には、きちんとした対応をしないと逮捕される可能性は高まりますし、前科がつく可能性も出てきます。したがって、この場合にも、お早めに刑事事件の経験が豊富な弁護士にご相談ください。

信書開封罪の疑いをかけられた場合は弁護士へ

信書開封罪は身近で起こり得る犯罪です。それにもかかわらず、一般にあまり知られていないのは、殺人や窃盗のようにニュースに取り上げられるほど件数が多くないことが一つの要因だと考えられます。

メジャーでないがゆえに、より専門的な知識や経験を持った刑事を主として扱っている弁護士への相談が必要です。
加えて、前述のように親告罪である以上、起訴されるか否かの大きなポイントは被害者の告訴にあります。告訴を避け、あるいは告訴を取り下げてもらうには、弁護士を通じて被害者と示談交渉を行うことはとても重要です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。信書開封罪のように、一般に単に倫理的に問題のある行為と認識されている行為が、実は刑法上定められている、ある意味れっきとした犯罪であることもしばしばあります。

信書開封罪は、刑事事件として立件される程までに発展するケースはほとんどありませんが、万が一発信者や名宛人との間でもめる事態となったり、警察から呼び出される事態となったりした場合にはお早めに刑事事件の経験が豊富な弁護士にご相談ください。

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刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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