保険というのは何かがあった時の為に、経済的な面において自分や家族を守るためにあるものです。しかし、近年、それを悪用し、実際に起きていない損害に対する保険金を搾取する保険金詐欺が多く見られます。
保険金詐欺の事件は逮捕されるケースが多いです。なぜ逮捕されることが多いのか、保険金詐欺とはそもそもどういった行為をいうのか、保険金詐欺で逮捕された場合にはどう対応すればよいのかを代表弁護士・中村勉が解説いたします。
保険金詐欺とは
保険金詐欺とは、保険金の支払いが受けられる対象を装い、虚偽の申告をして、保険会社から保険金の支払いを不正に受ける詐欺の手口のことを言います。
大きく分けて、①最初から保険金目当てで事故等をでっちあげるケースと、②保険金の支払いが受けられる事故等が発生したことを奇貨として、本来受けられる保険金の金額よりもより大きい金額の支払いを受けるべく、一部虚偽の過剰な申告をするケースがあります。
①の例としては、専ら保険金目当てで、わざと交通事故を起こしたり、自宅に火をつけたりするなどし、保険会社には交通事故被害や放火被害を装って保険金をだまし取る行為が挙げられます。海外で旅行中に盗難に遭った旨嘘の申告をし保険金を請求する行為もこれに当たります。
②の例としては、実際に偶然交通事故に遭い、怪我の治療のため病院や整骨院に通院したものの、知人の医者や整骨院の院長等と共謀して通院日数を水増しし、保険会社に対して虚偽の治療費や通院日数を申告して過剰な保険金の支払いを受ける行為が挙げられます。また、実際に自然災害で被害にあった場合に、実際にはその機会に被害を受けてないものについても同時に被害を受けたものとして、保険会社に申告して過剰な保険金の支払いを受ける行為もこれに当たります。
保険金詐欺で問われる罪状と罰則
保険金詐欺とはよく言われますが、これは詐欺の一つの手口ないし類型を表す言葉であって、そのような罪名があるわけではありません。あくまでも、成立する罪名は詐欺罪(刑法第246条)です。
刑法第246条(詐欺)
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
詐欺罪の刑事罰は「10年以下の懲役」です。窃盗罪などのように、罰金刑は定められていませんので、起訴されるとしても略式裁判で終結する道はなく、正式裁判を行うことになります。したがって、比較的重い犯罪の部類に入ります。
また、詐欺罪は未遂でも処罰されることになっています(刑法第250条、第246条)。
刑法第250条(未遂罪) この章の罪の未遂は、罰する。
したがって、実際には保険金詐欺であることが途中でバレて保険金が支払われなかったとしても、保険会社の担当者をだます意図で保険金請求をした時点で、詐欺未遂罪という立派な犯罪が成立します。
未遂罪は、原則として「刑を減軽することができる」となっているに過ぎず(刑法第43条本文)、必ずしも減軽されるとは限りません。また、詐欺未遂罪につき、その刑を減軽するとしても、刑罰の範囲が懲役6月以上5年以下になるに過ぎず(刑法第68条3号、第246条、第12条1項)、罰金刑にはなりません。
なお、保険金を請求するにあたり、診断書等を偽造し、それを保険会社に提出した場合には、私文書偽造罪(刑法第159条1項)や偽造私文書行使罪(第161条)等も成立し得ます。
保険金詐欺で逮捕されたら
では、保険金詐欺で逮捕された場合の流れを紹介します。詐欺罪では、現行犯逮捕よりも、逮捕状をもって警察が家にやってくるという通常逮捕が一般的です。
逮捕されると、まずは最大で48時間は警察により身柄を拘束されることになり、その間に、警察官から弁解を聴取され(刑事訴訟法第203条1項)、また、事案によっては別途取調べも受けることになります。そして、逮捕から48時間以内に、警察から検察官へ事件記録が身柄と共に送致され(刑事訴訟法第203条1項)、今度は、送致を受けた検察官から弁解を聴取されます(刑事訴訟法第205条1項)。
検察官は、送致を受けた時から24時間以内に、上記聴取内容等も踏まえて被疑者を勾留すべきかを検討し、勾留すべきと判断した場合には、裁判官に勾留請求を行います。裁判官が勾留を認めれば、まずは10日間勾留されることになります。もっとも、勾留期間は最大でもう10日間延長することができるとされており(刑事訴訟法第208条2項)、保険金詐欺の事案では大抵の場合、もう10日間勾留が延長されます。
したがって、保険金詐欺ではひとたび逮捕されると、逮捕の日から数えて最大23日間もの間身柄が拘束されることになります。その後、起訴されることになると、保釈許可がされない限りは、裁判が終わるまで、すなわち判決が出るまで、さらに身柄拘束が続くことになります。
なお、逮捕後、勾留が決定されるまでの間は、基本的に家族であっても面会することができません。唯一弁護士のみ面会することが可能となっています。また、共犯者がいる場合には、口裏合わせ防止等のため、勾留決定と共に「接見等禁止決定」というものがされる可能性があります。この決定がされてしまうと、勾留決定後も家族を含め弁護人以外は本人と面会することも文書のやり取りをすることもができません。
保険金詐欺で弁護士に依頼するメリット
逮捕の可能性が高い保険金詐欺につき弁護士に依頼するメリットについて、以下ご紹介いたします。
身柄解放のための活動等をしてもらえる
前述のとおり、保険金詐欺の事案では、ひとたび逮捕されると、その後勾留も続き、最大で23日間の身柄拘束を受ける傾向にあります。長い期間身柄拘束されると外部と連絡をとれず、職場をクビになる可能性や学校をやめなければならない可能性が高まります。
弁護士に依頼すると、勾留回避や勾留延長回避のために検察官や裁判官へ意見書を書いてもらうことができますが、保険金詐欺の事案では、そのような活動をしてもらったとしても、勾留や勾留延長を回避できる例は数少ないのが現実です。
現実的には、弁護士を通じて被害者との間で早期に示談することにより、起訴の可能性を低くすることができ、同時に勾留の必要性も小さくすることができますので、その方法により勾留延長を避けたり、勾留満期前に釈放してもらったりすることが考えられます。
起訴されてしまった場合には、勾留がさらに続くことになりますが、弁護士に依頼しておくと、起訴されたらすぐに保釈請求できるように準備しておいてもらうことができます。もちろん、保釈請求をしたらこれが必ず許可されるわけではありません。ですので、弁護士に依頼する場合には、どのようにすれば保釈が許可されやすいか、ポイントを心得ている、刑事事件に強い弁護士に依頼するとよいでしょう。
前述のとおり、共犯者のいる保険金詐欺の事案では、勾留決定と同時に接見等禁止決定もされてしまい、最大勾留期間中、家族でさえも面会できないことがあります。その場合には、唯一接見が許される弁護士が、本人と家族等との間の連絡の綱となります。
家族等が事件と全く無関係である場合には、弁護士から接見等禁止一部解除の申立てというものをしてもらえるでしょう。これは指定する家族等との間だけでは接見等禁止を部分的に解除し、当該家族等が面会できるようにしてください、と裁判所にお願いするものです。こちらは比較的認めてもらえることが多いといえます。
取調べのアドバイスや捜査の流れに沿った説明が受けられる
取調べでどのように受け答えするかは、検察官の終局処分(起訴するか不起訴にするか等)に影響してきますし、起訴された場合には、判決にも影響してきます。したがって、取調べでの受け答えの仕方は非常に重要です。弁護士に依頼すれば、そのような点も見据え、後々不利にならないよう、警察や検察官による取調べでの対応について、随時具体的なアドバイスを受けることができます。
特に保険金詐欺の事案では、当初から騙すつもりがあったか否かという詐欺の故意が問題となることが多く、捜査機関もその点を重視して取調べをしてくるため、捜査初動での取調べでの受け答えの仕方が重要となってきます。
そのほかにも、弁護士に依頼していれば、取調べの中で聞かれた内容や、検察官等から言われたことなどをヒントに、捜査がどのように進んでいるかや見通し等を弁護士に説明してもらうことができます。
特に身柄が拘束されている場合には、小さいことでも気になってしまうものですで、接見時に自分の味方である弁護士に取調べの内容等を報告したり、気になることを尋ねたりすることで、精神面の安定にもつなげることができます。
示談交渉等ができる
前述したとおり、詐欺罪には罰金刑がありませんので、略式裁判による終結はなく、検察官としては公判請求か不起訴の二者択一となります。したがって、被疑事実を認めている場合には、被害者である保険会社との示談や保険会社への被害弁償が重要になります。
弁護士に依頼すれば、示談や被害弁償も弁護士が代理して行ってくれます。弁護士が介入することで、保険会社も誠実に対応してくれるでしょう。また、その際、弁護士はできる限り依頼者の有利になるように交渉してくれます。
ただし、保険会社にとって、保険金詐欺はそれ自体腹立たしいことですし、調査の時間や費用等もとられるため、基本的に処罰感情が強いといえます。したがって、起訴される前の捜査段階においては、被疑者に弁護士がついていたとしても、あえて示談に応じたり、被害弁償を受けたりしない保険会社も相当数あります。
その場合、起訴されても致し方ないですが、起訴され、裁判が行われることが確実になったときには、示談や被害弁償に応じてくれる保険会社が出てきますので、弁護士には再度その段階で示談交渉等をしてもらえるでしょう。起訴後、すなわち公判段階で示談が成立した場合には、執行猶予付き判決を得られる可能性が高くなります。なお、示談の成否や被害弁償の有無は、保釈が許可されるかの判断にも大きく影響してきます。
否認している場合
保険金詐欺の被疑事実を認めていない場合、すなわち、否認している場合には、起訴された場合にその弁解が裁判で通用するかが、実刑との分かれ目になってきます。その見通しによっては、事実を積極的に争わずに示談交渉等に力点を置いた方が良いケースもあるでしょう。そのあたりを見極めるためには、弁護士の中でも刑事事件の経験が豊富な弁護士の助力が必要です。
このように、保険金詐欺で逮捕された場合には、早めに刑事事件に強い弁護士に依頼し、適切な対応をした方が良いでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。保険金詐欺は比較的重い犯罪の類型にあたります。捜査での対応の仕方を間違えると、実刑になる可能性も十分にあります。
保険金詐欺で逮捕された場合はもちろんのこと、保険金詐欺をしてしまった場合には、お早めに刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。