普段ニュースを聞いていると「警視庁は本日、容疑者を建造物侵入の疑いで逮捕しました。警視庁によると、これまでにも容疑者と思われる同様の通報が寄せられており、余罪もあるものとして調べています。」などと聞いたことがあるかもしれません。
事件の容疑者として捜査を受けた場合には、これまでの犯罪行為の全てが明るみになってしまい、刑罰を課せられるのでしょうか。
また、これまでの犯罪行為についても全て話した方がいいのでしょうか。今回は、「余罪」について解説します。
本コラムは弁護士・山口亮輔が執筆いたしました。
余罪とは
法律上明確な定義はありませんが、一般的に余罪とは、捜査を受けている被疑事実又は裁判となっている公訴事実とは別の犯罪事実をいいます(一方で、捜査を受けている被疑事件や裁判となっている公訴事実のことを「本件」といいます)。
ある犯罪で逮捕、勾留された場合には、いつ、どこで、誰に対して、どのような行為をした疑いがかけられているのか、逮捕状や勾留状に記載されることになります。
このとき、逮捕状や勾留状に記載されていない別の日、別の場所で、別の人に対して行われた事件などが余罪に当たります。
万引き、侵入盗、色情盗などの窃盗事件、特殊詐欺の受け子・出し子事件、盗撮事件、痴漢事件、薬物事件などは警察が発覚する以前にも同様事件を犯していることが多いです。
刑事手続は原則として、あくまでも捜査を受けている被疑事件を対象として逮捕・勾留、捜索差押えの要件を検討し、逮捕勾留されていない別件の余罪については取調べを受ける義務もありません(これを「事件単位の原則」といいます。)。
余罪取調べ
甲さんは、令和3年8月1日にAさんから特殊詐欺の受け子として100万円を騙し取り、この詐欺事件で逮捕された場合には、逮捕以前の令和3年7月15日に行われたBさんに対する100万円を騙し取った詐欺事件については、取調べを受ける義務はなく余罪の取調べについては拒否できます。
余罪取調べについて、詳しくはこちらで解説しています。
余罪がある場合に事件に及ぼされる影響
取調べを受ける必要がないといっても、以下に述べるように、余罪がある場合には適切な弁護士による助言と弁護活動が必要となります。
勾留期間
逮捕された後、①罪を犯したと疑うに足りる相当の理由があり、②(1)定まつた住居を有しないか、(2)罪証隠滅のおそれがあるか又は(3)逃亡のおそれのいずれかが認められ、③勾留の必要がある場合には勾留がなされることがあります(刑事訴訟法207条1項、60条1項、87条1項)。
勾留は勾留請求があった日から数えて10日間、10日間の勾留期間で捜査を遂げなかったやむを得ない理由がある場合には、さらに最大で10日間の延長をすることができます(刑事訴訟法208条1項、2項)。
あくまでも勾留の要件である①~③は捜査を受けている被疑事実を対象として検討されますので、本件に対する取調べが終結しているにもかかわらず、余罪の取調べをする必要があることのみを理由とすることや、余罪について罪証隠滅のおそれがあることを理由として本件の勾留の要件を判断することはできません。同様に10日間の勾留期間で本件の取調べが尽くされたにもかかわらず、余罪捜査の必要があることのみを理由として、勾留延長のやむを得ない理由があると判断することはできません。
余罪の存在について関係証拠により相応の嫌疑が認められる場合には、当該余罪事件については別途、裁判官の審査を受けるために再逮捕・勾留という手続きを経る必要があります。ただし、余罪の存在のみを理由として本件の逮捕・勾留の要件を検討することはできませんが、余罪の存在によって本件の犯意を推認するような場合や、余罪の存在により刑事処分を免れるために所在不明になる可能性が高まるのであればこれを加味して判断することができるとされています。
一方で、余罪の存在について、関係証拠により相応の嫌疑が認められ再逮捕・勾留の要件を具えている場合には、本件の勾留期間中に余罪の取調べにも応じることによって、再逮捕・勾留を避けられる可能性があり、結果として早期終結による利益を受ける場合がありますが、余罪についても立件される可能性があり諸刃の剣といえるでしょう。
いずれにしても、本件の勾留期間中に余罪について取調べに応じるか応じないかのどちらが利益になり得るか、弁護人の助言なくして方針を立てるのは困難と言えるでしょう。
起訴
検察官は、所与の捜査を尽くした後、送致された本件について犯罪の嫌疑が認められるかどうかを判断し、犯罪の嫌疑が認められる場合であっても、起訴しないという判断をすることができます(起訴便宜主義、刑事訴訟法248条)。
このとき、原則として、本件事案の重大性や示談の成否などを基準として起訴するかどうかを判断することになりますので、本件が軽微な1件の事件であり、被害者と示談が成立している場合には、不起訴処分をすることが見込まれます。
検察官は「犯人の性格」「年齢」「境遇」「情状」などを踏まえて刑事処分を判断するため、軽微な1件の事件であっても、余罪の存在も加味して起訴処分とする可能性があります。
たとえば、携帯電話機の中に多数の盗撮動画が保存されており、多数の余罪の存在が認められる場合には、たとえ本件が1件の軽微な盗撮事件であり、被害者と示談が成立していたとしても余罪の存在を加味して起訴処分となることがあるわけです。
このような場合に、不起訴処分の獲得を目指すのであれば、余罪の取扱いについて、弁護人による助言が必要であるといえるでしょう。
刑罰
我が国の刑事裁判においては、被告人がいかなる行為を犯したのか、被告人が犯した事件の重大性はどの程度かなどを踏まえて被告人が犯した行為に見合った刑罰が科せられるとされています(これを「行為責任主義」といいます。)。
このとき、あくまでも被告人に対する量刑は、裁判となっている本件の事案の重大性をもとに判断されることになり、起訴されていない余罪を実質的に処罰する趣旨で量刑を重くすることはできませんが、被告人の性格、経歴、動機、目的、方法等の情状を推知するための資料として考慮することは認められているとされています(最判昭和41年7月13日刑集20巻6号609頁)。
そのため、たとえ、保険金殺人事件のように、殺人の事実と保険金請求の事実(詐欺)が認められるとしても、保険金詐欺の事件について裁判となっていなければ、保険金詐欺の事実を実質的に処罰する趣旨で量刑を重くすることはできませんが、「利己的な犯行」「強固な殺意に基づく犯行」「残忍な犯行」として殺人の情状を推知するための資料として考慮することができます。
余罪を実質的に処罰する趣旨での判決であるのか、情状を推知した判決であったのかを区別することは難しく、実際に、当初は殺人と銃砲刀剣類所持等取締法違反で起訴されていたにもかかわらず、被告人が被害者を殺害する以前に被害者の裸体をインターネットに掲載したことについて警察官の証人尋問を行うなど実質的に名誉毀損の審理を行い(当時は、リベンジポルノ防止法の施行前でした)、このような名誉毀損行為を処罰する趣旨で量刑を重くしたものであるとして破棄された事件もあります(東京高判平成27年2月6日東高刑時報66巻4頁)。
いずれにせよ、余罪が考慮されて量刑が重く判断されたのではないかと不安に思われた場合には、控訴を視野に入れる必要があるので、弁護士に相談することをお勧めします。
余罪が判明する可能性とケース
事件の中には、警察に発覚した本件の他にも類型的に同種余罪が疑われる事件類型があります。
たとえば、盗撮事件は被害者や目撃者による通報によって警察が事件を認知することが一般的ですが、発覚した事件以前にも同様の事件に及んでいることが一般的です。盗撮事件は、写真や動画を撮影することを目的とする犯罪ですので、携帯電話機内に撮影した電子データが保存されたままになっている場合が多いため、携帯電話機の解析をすることで余罪も発覚する事件類型であるといえます。
仮に一度削除してしまったデータについても、解析により元々のデータを復元できる場合もあります。
その他、犯行現場や犯行時期が近接している連続放火事件や連続わいせつ事件などでは、既に複数の通報が寄せられていることが多く、発覚しやすい余罪といえるでしょう。この場合は、周囲の防犯カメラ映像や遺留品、被害者目撃者の供述、被疑者の自白、被疑者の指紋やDNA型などを照らし合わせて同一の犯人による犯行であるのか判断することになります。
一方で、目撃者がいない飲酒運転事件や通報がなされていない事件では、あえて自白しなければ発覚する可能性は低いと考えられます。
余罪がある場合の弁護活動
余罪がある場合であっても、原則は本件の事案の重大性などを踏まえて逮捕勾留の要件、起訴又は不起訴処分の判断が検討されることは先ほど申し上げたとおりです。
問題は、余罪がある場合には、逮捕勾留も余罪も加味してなされる可能性があること、起訴又は不起訴処分及び言い渡される判決にも影響が生じるため、不起訴処分又は略式請求の余地がないかどうか、早期の身柄釈放や起訴後の保釈が実現できる可能性があるかどうか、余罪も併せて起訴された場合に実刑判決が予想されるかどうかなどを踏まえて、捜査段階において適切に黙秘権、供述拒否権、取調拒否権などを行使して、弁護活動に当たる必要があります。
場合によっては、供述しなければ発覚しなかったにもかかわらず、自白したことによって余罪も併せて起訴され、実刑判決を言い渡されてしまう…ということもあり得ます。
余罪がある場合、自白しなくとも発覚する可能性が高い事件であれば自白して早期の身柄釈放や不起訴処分を目指すことも視野に入りますが、どのような方針をとるかどうかは捜査状況を分析することが必要であり、弁護人による助言が必須であるといえるでしょう。
余罪に関するQ&A
Q: 警察に「余罪があるかを調べる」と言われました。どうやって調べられますか?
既に被害届が提出されている事件では、証拠と照らし合わせて犯人性について調べられることになります。また、被害届が提出されていない余罪であっても、携帯電話機やパソコンの解析によって過去の取引履歴や録音録画データから、新たな事実が発覚する可能性があります。
Q: 余罪は証拠がなくてもバレますか?
余罪に関する直接的な証拠がない場合には、発覚する可能性は低いです。
しかし、余罪に関する証拠を隠滅した場合や、余罪を否認した後に余罪が発覚した場合には情状面で不利に働く可能性がありますので、余罪の取扱いは慎重に検討すべきでしょう。
Q: 余罪が発覚した場合と余罪を申告した場合では、どちらの方が罪は軽く済みますか?
余罪の存在を失念し後日発覚した場合は、あえて嘘をついていたわけではないのでさほど影響はないでしょう。
ただし、余罪の存在を隠していたとして情状面で不利に働く可能性は否定できません。
一方で、自ら進んで余罪を申告し、捜査機関に発覚した場合は、反省の態度の一つとして情状面でプラスに働き、結果として不起訴処分や執行猶予判決につながることがあります。
Q: 余罪がある場合は申告しないといけませんか?弁護士には話すべきでしょうか?
本件についても余罪についても黙秘権が認められていることはもちろんのこと、本件で逮捕・勾留されている場合に、別件余罪に当たる事件についてはそもそも取調べに応じる義務はありません。
しかし、弁護士は余罪の有無を前提として弁護方針を立てています。依頼者から弁護士が余罪は無いと聞いて弁護活動を行っていたにもかかわらず後日余罪が発覚した場合は、これまでの弁護方針の転換に迫られることになる可能性があり、弁護士には真実を伝えた方がご質問者さんにとっても利益になります。
Q: 盗撮事件の在宅捜査中に再度盗撮してしまいました。この場合余罪として捜査されますか?
余罪は、本件以前に行われた事件に限らず、本件以後に行われた事件も含まれます。
現在、本件の捜査中であれば、余罪として捜査を受け、両事件併せて事件送致となり終局処分が検討されることとなります。
Q: 余罪が複数ありますが、記憶が曖昧です。この場合でも警察に伝えれば罪を償うことができますか?
犯罪行為の全てを記憶しているものではないので、記憶が曖昧なことは自然なことです。
記憶が曖昧な余罪についても供述することによって情状の一つとして考慮されることがありますが、記憶が曖昧な余罪については、そもそも自らの犯行であるかどうか明確ではなく、場合によっては、全くの濡れ衣である可能性も考えられるため、供述すべきではないと思われます。
まとめ
本件について、不起訴処分の可能性がある場合は、余罪についても自白した方が良い場面もありますし、余罪について黙秘した方が良い場面もあります。
また、本件について起訴処分を免れない場合は、余罪の再逮捕や立件を避ける必要が出てきます。
余罪の取扱いについては、予想される事件の見通しや判決の内容を踏まえて活動する必要がありますが、個人ではなかなか判断が難しいと思いますので、弁護人を選任した上で事件解決に向かうのが良いでしょう。
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