オンライン採用試験の替え玉受験について代表弁護士が解説
令和4年11月22日付けの報道において、会社の就職試験になかなか合格しなかった女子大生が、面接試験代行を名乗る20歳代の男に替え玉面接を依頼し、採用試験のウェブテストをその就活生の女子大生に代わって受けたということで、その男が警視庁に逮捕され、依頼した女子大生も書類送検されたというニュースに接しました。
この事件について、代表弁護士・中村勉が解説します。
替え玉受験はどんな罪になるのか
今回の罪名は、私電磁的記録不正作出罪とのことです。依頼した女子大生も共謀として同罪で書類送検されたとみられています。
コンピューター・電磁的記録対象犯罪
今回のようなコンピューターを使用した犯罪に適用される法律には様々なものがあります。
電子計算機使用詐欺
金融機関の端末から不正に自身の口座に入金する、不正に作出したテレホンカードを使って公衆電話を利用するなど。
電子計算機損壊等業務妨害
コンピューターや電子記録を破壊して、コンピューター上で行われる業務を妨害するなど。
不正指令電磁的記録作成・提供・供用・取得・保管
コンピューターウイルスやマルウェアの作成、提供など。不正指令電磁的記録作成等罪は「ウイルス作成罪」としても知られています。
これらのほかにコンピューターネットワーク利用犯罪というものがあります。
コンピューター・電磁的記録対象犯罪はコンピューターを中心とした犯罪ですが、コンピューターネットワーク利用犯罪は、ネットワークを「手段」として用いた犯罪です。
代表的なものとしては、インターネットを通じた「児童ポルノ」、「詐欺」、「青少年保護育成条例」、「わいせつ物頒布等」、「児童買春」、「商標法違反」、「著作権法違反」、「脅迫」、「ストーカー規制法違反」、「名誉毀損」などが挙げられます。
不正アクセス禁止法違反
不正アクセス禁止法は、インターネットなどを通じ、他人のIDやパスワードを利用し、本来制限されている機能を利用可能な状態にする行為(不正アクセス)を禁止する法律です。
一般的に想像される、SNSへの不正ログイン行為はもちろん、セキュリティーホールを攻撃する行為や、社内権限を悪用した個人情報の入手なども該当します。
そして、今回の替え玉面接事件で適用されたのが、電磁記録不正作出・供用罪です。金融機関の端末に読み取らせ利益を得るなどの目的で不正なデータを作成する、磁気ストライプ部分のある預金通帳を銀行のATMに差し込むなどが典型的です。
ずばり替え玉面接事件の処分見込みは?
今回の事件は、コロナ禍で会社の採用試験においてもオンライン面接が普及していたという背景があって発生しました。
刑法第161条の2(電磁的記録不正作出及び供用)によると、「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」とあります。
ウェブを用いたテストを内容とする採用試験とのことで、本人以外のものがウェブ上で回答したことから「不正」に私電磁的記録を作出したとの構成要件に該当するのです。
検察官による処分見込みですが、おそらく、今回の事件では、繰り返し替え玉受験を請け負っていたとされる容疑者については、利得も高額であることが予想され、罰金では済まず、起訴されると思われます(起訴後に保釈は許可されるでしょう)。裁判では、執行猶予判決を受ける可能性が高いと思われます。
これに対し、替え玉受験を依頼した女子大生は、本件一回だけの依頼であれば起訴猶予もしくは罰金刑に留まるでしょう。
いずれもしても、諸外国、例えばアメリカなどでは会社の就職試験が、一発勝負のWEBテストということはまずなく、その志望者のこれまでの学生生活や大学での成績、ボランティア活動や社会貢献を総合して判断するのが普通であって、一発試験第一主義の日本に特有の犯罪類型なのかもしれません。