令和2年11月、静岡県浜松市の新型コロナウイルス対策の休業要請に基づく協力金50万円を騙し取ったとして、男女2名が静岡県警浜松西署などに詐欺の疑いで逮捕されました。
他にも、令和2年6月、愛知県内で、キャバクラ経理担当の男性が、同じように休業要請に基づく協力金50万円を愛知県から騙し取ろうとしたとして、詐欺未遂の疑いで逮捕されています。更に、令和3年7月にも、東京都の協力金をだまし取った件で2つの事件が立て続けに摘発されています。このような営業短縮等協力金、いわゆる休業要請等協力金詐欺が近年多発しています。
これらの協力金詐欺は犯罪です。また、違法不正な受給申請者に対しては、受給額と同額の違約金の請求や、氏名の公表などの措置が採られる可能性もあります。以下、休業要請等協力金制度や詐欺犯罪の手口などを紹介いたします。
休業要請等協力金とは
正式には、飲食店等を対象とした「営業時間短縮等に係る感染拡大防止協力金」をいいます。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、各地で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令・延長されたことなどに伴い、営業時間短縮や休業の要請に全面的に協力した飲食事業者等の店舗を対象として支給される協力金となります。
休業要請等協力金の支給対象者
支給対象者は、食品衛生法に基づく飲食店営業又は喫茶店営業の許可を受けて営業している飲食店等です。
「飲食店等」とは、例えば、料理店、喫茶店、和菓子・洋菓子店、タピオカ屋、居酒屋、屋形船などがあります。また、自治体によっては、これらのいわゆる飲食店の他、劇場、観覧場、映画館、演芸場などの劇場等、カラオケ店、キャバレー、スナック、バー、個室ビデオ店、ライブハウスなどの遊興施設等、ボウリング場、スポーツクラブ、麻雀店、パチンコ屋、ゲームセンターなどの遊戯施設等、ホテルなどの宿泊施設等も対象としています。
休業要請等の内容
現在要請されている内容は主に以下の通りです。
1. 酒類提供、店内持込あり 又は カラオケ使用ありの飲食店等
休業要請(法第45条第2項)
2. 酒類提供なし、店内持込なし かつ カラオケ使用なしの飲食店等
5時から20時までの営業時間短縮を要請(法第45条第2項)
休業要請等協力金の支給要件
休業要請等協力金の支給要件は主に以下の通りです。
- 上記の1(休業要請対象店舗)
休業(ただし、酒類やカラオケ設備の提供を取り止める場合は次項となります) - 上記の2(営業短縮要請対象店舗)
夜20時から翌朝5時までの時間帯に営業を行っていた店舗において、朝5時から夜20時までの間に営業時間を短縮すること
これに加えて、ガイドラインを遵守し、「感染防止徹底宣言ステッカー」を店舗ごとに掲示することや、申請に当たって、「コロナ対策リーダー」を店舗ごとに選任の上登録すること(東京都)などを要件とする自治体もあります。詳細は各自治体のホームページをご確認ください。
休業要請等協力金詐欺の事例
そもそも受給対象店舗ではないのに偽り受給
受給対象となる店舗は上述のような飲食等です。これに対して、下記のような店舗はそもそも受給対象ではありません。
- テイクアウト専門店(惣菜・仕出し、弁当・和菓子・洋菓子・ドリンクスタンドなどの飲食場所を設けていないもの)
- 宅配ピザ屋などのデリバリー専門店
- 自動販売機コーナー
- キッチンカー
このような受給対象外であるにもかかわらず対象店舗であると偽り申請・受給することは詐欺行為となり、犯罪です。
受給対象店舗ではあるが休業等の実態がないのに偽り受給
受給要件の柱は、各自治体の要請する休業・営業短縮等の内容を履行することにあります。
しかし、各自治体の発表によると、以下のような例が多数確認されるとのことです。
- 実際には20時以降も営業しているにも関わらず時短要請を偽装
- 実際には酒類を提供して営業しているにも関わらずその提供がないかのように偽装
- 以前から廃業や休業していたにも関わらず営業実態があったかのように偽装
このように休業等の実態がないにもかかわらず、あると偽り申請・受給することも詐欺行為であり、犯罪です。
二重受給
給付金はそもそも同一時期に各店舗一回までの支給となります。
しかし、各自治体の発表によると、一店舗しか経営していないにもかかわらず、例えば表玄関と裏玄関とを撮影し分け、あたかも2店舗以上あるかのように装い、複数店舗分の協力金を申請・受給する例があるとのことです。このような行為も詐欺行為で犯罪です。
無許可営業
飲食店を営むには、保健所の許可が必要です。協力金を受給するためには、上記要件を満たしていることの前提として、このような保健所の許可を得ている必要があります。
しかし、昨今の摘発事例の中には、実際には保健所の営業許可を得ていないにも関わらず、このような許可を得ているよう偽装して、協力金の申請をする事例も報道されています。このような場合、自治体等の休業要請に応じていない場合は勿論、実際に休業要請に応じていたとしても、詐欺罪が成立する可能性があります。
休業要請等協力金詐欺による逮捕事例
事例1
静岡県内では、令和2年11月、静岡県浜松市の新型コロナウイルス対策の休業要請に基づく協力金50万円を騙し取ったとして、男女2名が静岡県警浜松西署などに詐欺の疑いで逮捕されました。被疑事実は、共謀して浜松市の休業要請期間である同年4月25日から5月6日までの間、女性の経営するバーを実際には営業していたのに全日休業したように装い協力金を申請し、女性の口座に50万円を振り込ませてだまし取ったとのことです。
事例2
愛知県内では、令和2年6月17日、愛知県内で、キャバクラ経理担当の男性が、同じように休業要請に基づく協力金50万円を愛知県から騙し取ろうとしたとして、詐欺未遂の疑いで逮捕されました。
事例3
警視庁は、令和3年7月、東京都が1回目の緊急事態宣言の際に、休業要請に協力した飲食店に向けて支給した協力金100万円について、その2店舗分をだまし取った疑いで、都内でフィリピンパブを経営していた男性を詐欺の疑いで逮捕しました。この男性に対しては、知人男性に対し、営業許可の名義を不正に貸し出した疑いも持たれているようです。
事例4
警視庁によりますと、令和3年7月、東京都にうその書類を提出し、協力金200万円をだまし取ったとして、東京都で複数の飲食店を運営する会社社長を詐欺罪により逮捕しました。運営する一部の飲食店では、保健所の許可無く営業していたものもあり、申請の際には、偽造された保健所の営業許可証を送っていた疑いがもたれています。
休業要請等協力金詐欺に対する各制裁
刑事罰
休業要請等協力金を騙し取る、または騙し取ろうとする行為は、いずれも犯罪です。
前者は詐欺罪、後者は詐欺未遂罪として、最悪の場合には懲役刑に処せ、刑務所へ服役することとなります。
違約金
違法不正な申請・受給が確認できた場合には、受給額と同額の違約金を別途支払わなければなりません。この権限は各自治体の知事に法律上付与されています(営業時間短縮に係る感染拡大防止協力金事務取扱要綱など)。
申請者の公表
さらに、自治体によっては、違法不正申請・受給をした申請者を公表するなどの必要な措置を講じているものもあります。
詐欺事件の量刑相場
詐欺罪は、刑法第246条により、10年以下の懲役に付されます。複数行為が起訴されれば併合罪加重されて上限は懲役15年です。また、このような犯罪を組織的に行った場合には組織的犯罪処罰法の適用によりさらに重い刑罰を下されることになります(懲役20年以下)。
刑法第246条
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
振り込め詐欺のような特殊詐欺になると、重い例としては、組織犯罪処罰法が適用された例で、主犯に対し懲役20年の判決が下されたという事例があります(東京地裁平成22年)。
この事例では被害額が約1億4600万円でした。被害額が1000万円程度でも、主犯格であれば懲役9年6月という事例もあります(大阪高裁平成29年)。犯行が未遂に終わった事例であっても、犯行の悪質さなどによっては初犯でも懲役刑となる可能性があります。目先の50万円欲しさに詐欺を行うことには刑罰という重い代償が待っているのです。
休業要請等協力金詐欺の解決方法
警察署に対する自首
休業要請等協力金を不正受給した場合、各自治体へ早急に返金しなければなりません。返金にあたっては、申請者の氏名や申請者番号、住所などの個人情報を警察などに申告しなければならず、不正受給が確認されると、各自治体の知事により支給決定が取り消されます。このような行政手続の過程で、上述の通り、申請者の氏名が公表される可能性があり、また、刑事告発されるおそれがあります。
刑事告発がなされれば、法律上の自首(刑法42条1項)が成立せず、任意的減軽を受けることが出来ません。また、自首をしたケースと比べると、逮捕等の強制捜査がなされる可能性が高まるといえます。とりわけ、詐欺共犯事件では、共犯者同士の口裏合わせなどの証拠隠滅の恐れが高いと考えられていますので、自首をしなかった場合には、強制捜査がなされる可能性が高いといえます。したがって、不正受給をしてしまった場合には、各自治体への申告と同時または事前に、警察署へ自首することが非常に重要となります。
休業要請等協力金の返金申出と返金手続
警察署への自首の後または同時並行にて、受給してしまった協力金の返金手続を行います。返金先は各自治体となるため、自治体ごとの中小企業支援課などの窓口へ申告することとなります。申告の際には、上述した個人情報を報告することとなります。
休業要請等協力金詐欺をしてしまったら
このように、協力金の不正受給はれっきとした犯罪であり、最悪の場合には刑務所へ服役することとなります。「バレないだろう」などと安易に行ったものの遅かれ早かれ発覚するのが犯罪というものです。少しでも心当たりのある方は、早期に解決方法を検討し実行に移すことが重要です。