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鑑定留置制度について弁護士が解説

令和3年10月31日の夜、東京都調布市の国領駅を走行中の京王線車両内において、乗客17人が刺傷されるなどしたとされる痛ましい事件が発生しました。

以下、京王線刺傷事件を例に鑑定留置制度代表弁護士・中村勉が解説いたします。

捜査段階における鑑定留置の問題性

鑑定留置という言葉は聞いたことがあると思います。特に無差別殺傷事件や動機が不可解な事件で鑑定留置がなされることが多いので、報道の機会も多いです。
最近では、裁判員裁判が予想される事件にあっても捜査段階で鑑定留置されるケースが増えています。それは検察官が起訴するかどうかの判断材料とすることはもちろん、「念の為」として鑑定留置が利用されることもあります。

裁判員裁判は集中審理で、審理を鑑定留置によって中断させる訳にもいかず、捜査段階で責任能力があることをはっきりさせようという趣旨です。
しかし、鑑定留置されると数ヶ月間、捜査がストップしてしまい、捜査段階の身柄拘束期間が非常に長くなってしまいます。また、捜査の主催者の検察官が鑑定留置をハンドリングする点で公平性にも問題があります。そのような「念の為」の鑑定留置制度の利用、濫用には批判もあります。

被疑者は、男性を刃物で刺して殺害しようとしたという殺人未遂罪(刑法199条、203条)の容疑で現行犯逮捕されました。また、他の乗客に向かってライターオイルをまき、火を放って殺害しようとしたとして殺人未遂罪と現住建造物等放火罪(刑法108条)の容疑で再逮捕されました。

鑑定留置制度

令和3年12月6日に被疑者の鑑定留置が開始されたとの報道がありました。今回の件では3か月程度の鑑定留置が決定しているようです。
では、刑事責任能力を調べる鑑定留置制度とはどのような制度なのかを解説いたします。

鑑定留置とは

鑑定留置とは、被疑者・被告人の精神状態や身体に関する鑑定を医師等の鑑定人にしてもらうにあたり、被疑者・被告人を病院その他の相当な場所に留置することをいいます(刑事訴訟法第167条、第224条)。
通常、刑事責任能力 の有無の判断のため、被疑者・被告人に精神障害等があるか等を調べる目的で実施されます。

刑事責任能力とは、ある行為が犯罪とみなされるために備えなければならない要素の1つであり、これが失われている場合は心神喪失となり、処罰できず(刑法39条1項)、また、著しく減退している場合は心神耗弱となり、必要的減軽となります(同条2項)。そのどちらでもなければ、完全責任能力とされ、法律上の減軽はありません。

鑑定留置は、被疑者段階、すなわち起訴前の捜査段階に捜査機関(主に検察官)が裁判官に対して鑑定留置処分を請求して行うもの(刑事訴訟法第224条、第167条)と、被告人段階、すなわち起訴後の公判段階に検察官、被告人若しくは弁護人の請求により、または裁判所が職権で行うものがあります(刑事訴訟法第167条、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第50条参照)。

本件では、被疑者が再逮捕の事実での勾留期間中に鑑定留置が決まっていますので、今回の鑑定留置は前者、すなわち、捜査機関が捜査の一環として行っている鑑定留置(以下「起訴前鑑定」といいます)になります。
なお、勾留中の被疑者・被告人に対して鑑定留置が実施される場合には、留置されている期間は、勾留の執行が停止します(刑事訴訟法第224条2項、第167条の2第1項)。

鑑定留置に至るまで

ここでは、起訴前鑑定としての鑑定留置に至るまでの流れについて簡単に説明します。
まず、被疑者の責任能力が問題となりそうな事案では、勾留期間中に、起訴前鑑定に先行し、簡易鑑定と呼ばれる鑑定が行われることが多いです。殺人、殺人未遂、放火等の重大事件では、犯罪の類型として被疑者の責任能力が問題となることが多いので、簡易鑑定が比較的実施される割合が高いです。その他、精神病院への入通院歴がある場合にも簡易鑑定が行われることがあります。

簡易鑑定では、被疑者が検察庁や病院等において日帰りで医師と面談し、その医師がその他の捜査資料等を参考にして鑑定書を作成します。期間を定めて行われる鑑定留置と違い、日帰りで実施されるものですので、勾留期間は停止しません。その後、簡易鑑定の結果を踏まえ、起訴前鑑定の請求が行われるという流れになります。なお、被疑者が何らかの精神障害を持っていることが明らかな場合には、簡易鑑定を経ずに起訴前鑑定の請求が行われることもあるかもしれません。

捜査機関は捜査権限として、鑑定を嘱託する権限を有しています(刑事訴訟法第223条)。起訴前鑑定は、捜査機関が被疑者の心神または身体に関する鑑定を嘱託するにあたり、病院その他の相当な場所に被疑者を留置する処分を必要とするときに、裁判官にその処分を請求して行うものとされ(刑事訴訟法第224条1項、第223条1項)、裁判官が当該請求を相当と認める場合には、鑑定留置状が発付されることになります。鑑定留置状には留置期間が記載されます。起訴前鑑定の留置期間は3ヶ月程度のものが多いです。

なお、検察官が鑑定の嘱託を受けた医師等が、対象者である被疑者の身体の検査をするためには、別途裁判官の許可が必要ですので、検察官は必要に応じて鑑定留置状と共に、被疑者の身体検査のための鑑定処分許可状を請求します(刑事訴訟法第225条、第168条1項)。

鑑定留置中はどのように過ごす?

鑑定留置の場所は事案により病院施設の場合もあれば、拘置所や警察署の留置場の場合もあります。いずれの場合も、弁護人が鑑定留置期間中に対象者と面会することは可能です。

拘置所で留置される場合には、鑑定医が拘置所に来て対象者と面談する例がよく見られます。場合によっては、そこから病院へ行って、検査等を対象者に受けさせることもあります。検査には、脳検査や心理テスト等があります。

留置期間中、鑑定医は必ずしも毎日、毎週、あるいは定期的に対象者と面談するわけではなく、鑑定医は必要に応じて、鑑定医のペースで面談を行います。
また、前述したとおり、鑑定留置期間中は勾留の執行が停止しますので、起訴前鑑定の場合、捜査機関は対象者である被疑者を強制的に取調べることはできません(刑事訴訟法第198条1項ただし書参照)。

鑑定留置中の生活は、留置場所が拘置所や警察署の留置場であれば、基本的に勾留期間中の生活とほとんど変わりません。捜査機関による取調べがない代わりに鑑定医による問診等が行われるという違いがある程度です。

鑑定留置後の流れ

起訴前鑑定の場合には、1週間前後の勾留期間を残して鑑定留置がされることが多く、検察官は鑑定留置期間終了後の残りの勾留期間の中で、鑑定の結果を加味しながら起訴・不起訴等の終局処分を決めることになります。

起訴される場合

検察官が鑑定の結果を踏まえ、被疑者に刑事責任能力があると判断すれば、起訴されます。完全責任能力と判断された場合はもちろん、心神耗弱と判断された場合も、無罪ではなく減軽にとどまり、刑事処罰を受けさせることは可能なので、起訴されます。
今回の事件では、被疑者は刑事責任能力を問えると判断され、令和4年3月11日に殺人未遂などの罪で起訴されています。

不起訴処分となる場合

検察官が鑑定の結果を踏まえ、被疑者に刑事責任能力がない、すなわち心神喪失と判断した場合には、起訴しても無罪になる可能性が高いので、不起訴処分とされるでしょう。
刑事責任能力がないとして不起訴処分となった場合には、刑事手続は一旦終了するものの、検察官により「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(医療観察法)に基づく申立てがされ、同法上の手続に沿って鑑定入院等が行われる可能性があります。

鑑定留置決定に不服があるときは?

これまでに精神疾患等の既往歴が無く、事件当時の精神状態に問題は無かったにもかかわらず鑑定留置決定がなされた場合など、鑑定留置決定に不服があるときは①鑑定留置理由開示請求、②鑑定留置決定に対する準抗告申立て、③鑑定留置取消請求をすることができます。

①鑑定留置理由開示請求

鑑定留置理由開示請求は、いかなる理由で鑑定留置決定をしたのかどうか裁判官に開示を求める手続であり、直ちに鑑定留置決定が取り消されるわけではありません。
しかしながら、裁判官がいかなる理由で鑑定留置が必要であると判断したのかを知ることができ、後に説明する②鑑定留置決定に対する準抗告申立て及び③鑑定留置取消請求の手がかりを掴むことができます。また、鑑定留置理由開示手続において、被疑者には意見陳述の機会が与えられるため、裁判官に対して鑑定留置がなされることによる生活への影響、現在の境遇、心境などを伝えることもできます。
鑑定留置理由開示請求は、期間中一度しか認められないので、請求時期は弁護人と相談して決めるのが良いでしょう。

②鑑定留置決定に対する準抗告申立て

これまでに精神疾患の既往歴が無い場合や事件当時の精神状態に問題は無いなどの理由で精神鑑定の必要がないとき又は精神鑑定を実施する必要があるものの、簡易鑑定によって達成し得るときなどの場合には、鑑定留置の要件がないことを理由として、鑑定留置決定に対して準抗告を申し立てることができるでしょう。

鑑定留置決定は1人の裁判官が判断したものですが、準抗告は3人の裁判官が話し合って鑑定留置決定が妥当であるのかを判断し、話し合いの結果、鑑定留置の必要が無いと判断された場合には、鑑定留置決定が取り消されることになります。
鑑定留置決定に対する準抗告申立ては基本的には期間中一度しか認められないので、前記鑑定留置理由開示請求をするなどして十分に準備して臨むのが望ましいでしょう。

③鑑定留置取消請求

予定していた鑑定留置期間より早期に精神鑑定が終了して留置の必要がなくなった場合のように、時間の経過とともに鑑定留置の必要が無くなることがあります。このような場合には、現時点では鑑定留置の要件が失われたことを理由として鑑定留置取消請求をすることができます。

鑑定留置取消請求は、請求に回数制限はなく、時間の経過、鑑定の状況からみて鑑定留置取消請求時点における鑑定留置の必要がないことを主張することができます。
そのため、鑑定留置決定当初は鑑定留置の必要があったと判断され、準抗告が棄却された場合でも諦めることなく、留置期間中に鑑定がなされていないなど鑑定留置に疑問が生じた場合には弁護人と相談の上、鑑定留置取消請求により、早期の身柄解放の獲得を目指すのが望ましいでしょう。

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経験豊富な弁護士がスピード対応

刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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