車を運転する方は、誰しも交通事故の加害者となる危険が伴います。
そのため、自動車は、いわゆる自賠責保険に加入しているものでなければ運転をしてはいけないこととなっていますが(自動車損害賠償保障法第5条)、これに加え、車を運転する方は、自賠責保険ではカバーされない範囲についてもケアするため、万が一の場合に備えて、任意保険に加入しておくのが一般的となっています。
保険に加入していると、被害者に対する治療費の支払い等のお金関係はすべて保険会社の担当者が代わりに被害者と連絡をとって行ってくれます。しかし、それでも刑事事件を中心に扱っている弊所では、交通事故の加害者からの相談をよく受けます。
というのも、保険に入っていて良かった、そう思っていたのも束の間、警察や検察からの呼出しを受け、「被害者の方が加害者から何の連絡もないとご立腹です」「人身事故扱いになります」「罰金です」「在宅起訴する予定です」などと告げられ、慌てて相談に来られるのです。
本コラムでは、交通事故加害者の弁護士の必要性について弁護士・中村勉が解説いたします。
交通事故の示談とは
保険会社の役割
保険会社は、本来加害者が被害者に対して負う損害賠償義務にかかる金銭を保険金として支払い立場にいますので、その額をできる限り抑えようとするインセンティブがあります。
物損事故の場合には、基本的に壊れた車両の修理費用や代車費用等を負担すればよいだけですが、人身事故となると、被害者の治療費、入院費、通院交通費、慰謝料、休業損害、逸失利益などが発生することとなり、 被害者が入通院を続ける限り支払いが続くこととなったり、その期間が長ければ長いほど負担しなければならない損害賠償額が高額となったりし得ます。
そのような終わりの見えない状態を解消するため、事故から一定期間が経過すると保険会社は被害者に対して示談の話を持ち掛けるのです。保険会社が被害者との間で示談をし、まとまった示談金を被害者に支払うことで、その後たとえ被害者において新たに治療費や通院交通費等が発生しても、基本的には加害者も保険会社もそれらの金額を負担せずに済みます。
このような金銭的な損害賠償の義務は民事責任と呼ばれます。保険会社は交通事故加害者の民事責任との関係で重要な役割を担います。
交通事故加害者の刑事責任
交通事故加害者には上記のような民事責任があるほか、運転免許との関係で減点処分、免許停止・取消処分等の行政上の責任があります。
そして、意外と認識されていないものとして、これからお話する刑事責任があります。
人身事故の場合は、被害者の方が亡くなられた場合には過失運転致死罪、負傷された場合には過失運転致傷罪の被疑事実で、刑事手続が進んでいくのが通常です。事故時に加害者が飲酒していたり薬物を使用していたりした場合には、より重い危険運転致死傷罪として扱われることもあります。いずれの罪も、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に規定されています。
危険運転致死傷罪や過失運転致死罪等の重い罪に問われた場合には、被害者との間の示談の成否にかかわらず、ほとんどの場合、公判請求されることになります。本コラムの冒頭で「在宅起訴」という言葉が出てきましたが、身柄が拘束されていない状態のまま公判請求することを「在宅起訴」と言います。
過失運転致傷罪の場合には、被害者の怪我の程度や被害者との間の示談の成否、被害者の処罰感情、加害者の反省状況・前科前歴の有無等によって、不起訴になる場合、略式罰金となる場合、公判請求される場合とに分かれてきます。
物損事故の場合、刑事事件に発展することは滅多にありません。ただ、よくあるのは、「事故による被害者の怪我が軽く、当初被害者は物損事故扱いでよいと言ってくれていた。けれども、先日警察から連絡があり、人身事故扱いにすると言われた。」というような事案です。
通常の刑事事件において、加害者が被害者の氏名を含む連絡先を伝えられることは滅多にありませんが、交通事故の場合には、事故直後に警察官の立会いのもと、加害者と被害者が互いの連絡先を交換することがよくあります。
当初は事故の現場ですぐに直接謝罪をしているのもあり、被害者の被害感情もそれほど強くなかったものの、その後加害者としてはどう動けばよいか分からず連絡をせず放置していたところ、被害者の被害感情を悪化させてしまったというケースや、軽微とはいえ被害者が怪我をしたため、一応保険会社が間に入ることになり、保険会社の介入後は被害者とのやり取りは保険会社に任せていたところ、警察から、被害者が加害者から何の連絡もなく気分を害されている旨告げられたというケースがよく見られます。
そのようなケースでは、当初は物損事故扱いでよいと言っていた被害者が人身事故扱いにしてほしいと警察に言う例が見られます。警察としては被害者の意向に従う義務はありませんが、通常であれば人身事故扱いになりうるような交通事故であったのであれば、被害者の意向を尊重することが多いといえるでしょう。
人身事故扱いになると、多くの場合、過失運転致傷罪として刑事手続に付されます。この場合、前述したとおり、場合によっては略式罰金や公判請求される等し、前科がつく可能性が出てきますので、注意が必要です。
初犯の人であっても、前科がつけば就ける職業等に制限が出てきますし、すでに前科がある人であっても、執行猶予中との事情がある場合には特に、この事件の帰趨により執行猶予が取り消されてしまうかが左右され得ますので注意しなければなりません。
交通事故の示談での弁護士の必要性
起こしてしまった交通事故が刑事事件化してしまった場合、その処分との関係において、被害者との示談が重要となってきます。
過失運転致傷罪のケースでは不起訴か略式罰金かの分かれ目、あるいは略式罰金か公判請求かの分かれ目となり得ますし、たとえ、示談をしたとしても公判請求される可能性が高い危険運転致死傷罪や過失運転致死罪のケースであっても、示談の成否は量刑に影響してきます。
先述したとおり、保険会社の行う示談は民事責任との関係で、その損害賠償額を固めるためのものにすぎません。被害者の気持ちに配慮して加害者本人の反省の様子を代わりに伝えることは保険会社の仕事ではありませんので、加害者自身が被害者に別途連絡を取らなければ反省の気持ちは被害者に伝わりません。
通常、弁護士が刑事事件絡みで行う示談においては、刑事処分との関係でも有利となるよう、示談書においては被害者において刑事処罰を求めない旨の文言を入れてもらいます。そのためにも、弁護士は加害者本人の謝罪の気持ちや反省している様子を被害者に丁寧に伝えます。
刑事責任は加害者個人の責任であって、保険会社にとっては関係も関心もありませんので、保険会社が代理して行う示談においてこのような文言を書面に入れてもらえるよう、保険会社が被害者と交渉してくれることはまずありません。
したがって、交通事故の示談を保険会社に任せきりしておいては、たとえ同じ金額の示談であったとしても、上記のような文言がないために、刑事処分との関係で上記のような文言がある示談と比べ、加害者側にそれほど有利に考慮してもらえない可能性があります。
以上から、人身事故など刑事事件化する可能性のある、あるいはすでに刑事事件化している交通事故の場合には、刑事事件や交通事故案件の経験が豊富な弁護士に相談・依頼されることをお勧めします。
当事務所にご依頼いただきますと、示談の代理はもちろんのこと、刑事事件における弁護人としても活動させていただきますので、以下のようなメリットがあります。
- 刑事処分との関係においても、できる限り有利な示談内容となるよう被害者と交渉
- 被害者の被害感情に配慮するため謝罪文をご作成いただくにあたっては、細やかに指導・添削
- 警察や検察に対し、処分ができる限り軽くなるようアプローチし、場合によっては意見書も提出
また、被害者が亡くなったり重傷を負ったりしている交通事故ですと、現行犯逮捕されて身柄が拘束される場合もあります。その場合には、早期の身柄解放のために迅速に動きます。
なお、示談にあたっては、通常、保険会社と連携することになりますが、ほとんどの保険会社は加害者が別途委任した弁護士が被害者との示談交渉を引き継ぐことを快諾してくれます。
中には、被害者との関係が上手くいっていない保険会社もあり、そのような場合に加害者の弁護人の立場にある弁護士がやり取りを引き継ぐと、意外にも被害者からも感謝されることがあります。保険会社と違って、加害者の反省状況等も教えてもらえるので、被害者としては気持ちの整理も付きやすくなるものと思われます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。人身事故の場合には特に、弁護士に依頼する必要性が高いことをお分かりいただけたかと思います。
物損事故扱いにすると言われた場合であっても、今後人身事故扱いに変わる可能性がある事故内容のときには、お早めに刑事事件や交通事故案件の経験が豊富な弁護士にご相談ください。
今すぐ無料相談のお電話を
当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
- 逮捕されるのだろうか
- いつ逮捕されるのだろうか
- 何日間拘束されるのだろうか
- 会社を解雇されるのだろうか
- 国家資格は剥奪されるのだろうか
- 実名報道されるのだろうか
- 家族には知られるのだろうか
- 何年くらいの刑になるのだろうか
- 不起訴にはならないのだろうか
- 前科はついてしまうのだろうか
上記のような悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。