テレビ番組の特集ではしばしば、万引きGメンによる万引き犯の現行犯逮捕の場面が放映されています。もっとも、このような万引き事件は、テレビの中の世界だけではなく、日常で起きている現実の事件です。
また、近時、ようやくクレプトマニアという万引きを繰り返す依存症の存在も世の中で認知されるようになってきました。
以下、もし万引き犯(窃盗犯)として逮捕されてしまった場合の刑事手続の流れや、処罰を軽くするためにどうすれば良いか等、代表弁護士・中村勉が解説いたします。
万引きとは
万引きとは、店舗の承諾なく、代金を支払わずに商品を持ち出す行為をいい、刑法上の窃盗罪(刑法第235条)に該当する行為です。窃盗罪の刑罰は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金が規定されています。
第235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
クレプトマニア(万引き依存症、窃盗癖)とは
クレプトマニア(窃盗癖)とは、窃盗行為を衝動的に反復し実行してしまう症状のことをいい、精神医学上、国際疾患分類(ICD‐10)においては「病的窃盗」と正式に記載されています。万引き等の窃盗を止めたくても自分の意思のみでは止められなくなる、依存症という病気の一種です。クレプトマニアの万引きの再犯率は非常に高く、その再犯率は「2年以内に8割」とも言われています。
万引きで逮捕される経緯
万引きが発覚した場合、まず警察に通報されるのが通常です。
警察庁作成の令和3年の刑法犯に関する統計資料によると、令和3年の万引きの検挙率は73.6%となっています。刑法犯全体の検挙率は46.6%ですから、万引きの検挙率はかなり高いことが分かります。警察が現場に臨場し逮捕の必要があると判断した場合や、予め逮捕状を取得していた場合には逮捕されることになります。
万引きが発覚するパターンには下記の例があります。
①店舗店員や警備員等が商品を盗む瞬間を目撃した場合
未会計の商品を鞄等に入れた状態で店舗外に出た瞬間に声を掛けられるパターンです。
通常は、事務所へ連れて行かれた後、事情を問われる間に、警察へ通報されます。
②商品が万引きされていることに気付いた店員等が後日に防犯カメラを確認したところ、犯行の一部始終が防犯カメラに映っていた場合
万引き当日には声をかけられなかったものの、後日に逮捕されるパターンです。
機器の性能向上等により、防犯カメラの映像は昨今非常に鮮明なものとなっているため、犯人が手にした商品をはっきり捉えることも可能です。
万引きで逮捕された後の流れ
万引きで逮捕された後の流れは、他犯罪と同様です。
・逮捕
↓
・警察による取調べ→→釈放又は微罪処分
↓
・検察への送致(いわゆる「書類送検」)
↓
・勾留→→不起訴処分又は略式罰金刑
↓
・正式起訴
↓
・起訴後勾留(→保釈→刑事裁判)
↓
・刑事裁判…有罪(懲役刑、執行猶予付き懲役刑)又は無罪
万引きで逮捕された場合でも処分を軽くするために
万引き事件で、処分を軽くするためには、示談の成立が鍵となります。起訴前に示談が成立した場合、不起訴処分となる可能性が高くなります。起訴後に示談が成立した場合にも、執行猶予を付されたり、量刑が軽くなる等の可能性があります。
逆に、示談が成立しない場合とは、被害者が非常に事件に対して憤慨しているケースなどであり、被害者感情が熾烈であるような場合が多いです。そのような被害者感情の強さ等に応じて、一般的に量刑は重くなる傾向にあります。
万引きで逮捕されたら弁護士にご相談を
万引き事件で逮捕や警察の調べを受けたら、早めに弁護士に相談することが重要です。逮捕されていれば本人が示談をすることは不可能ですし、仮に釈放された後であっても、犯人が被害店舗等の方々と直接に交渉することは、被害者の方たちの感情を逆撫でしかねず、かえって逆効果となる場合も多いです。
弁護士に早期に依頼することで、早期に示談交渉に着手し、刑事事件化を回避できたり、不起訴処分や、量刑のより軽い刑罰を獲得できたりします。まずは、弁護士に相談してみることをお勧めいたします。
万引きの逮捕事例・裁判事例
万引きの逮捕事例には、以下のようなものがあります。
- スーパーで食料品を万引きしたところ、店員等に発覚し、警察により現行犯逮捕された例
- コンビニエンスストア内で商品を万引きしたところ、店員等に発覚し、警察により現行犯逮捕された例
- 衣料品店で衣服を万引きしたところ、店員等に発覚し、警察により現行犯逮捕された例
- 中古本販売店において特定の商品が複数回にわたり万引きされていることに気付いた店員等が、後日に防犯カメラを確認したところ、犯行の一部始終が防犯カメラに映っており、当該映像等を警察へ情報提供するなどして、警察により犯人逮捕に至った例
万引きの裁判事例には、以下のようなものがあります。
- コンビニエンスストアで数百円程度の食料品を万引きし、店舗側と示談が成立せず、初犯であったことから略式罰金20万円が下された例
- スーパーで数百円程度の食料品を万引きし、店舗側と示談が成立せず、前科として罰金刑があったことから、正式起訴された後、懲役1年・執行猶予3年が付された例
- 百貨店で数千円程度の衣類等を万引きし、店舗側と示談が成立せず、執行猶予中の再犯であったことから、前刑と併せて懲役2年6か月が言い渡された例
- スーパーで数百円程度の食料品を万引きし、店舗側と示談が成立せず、前科として、直近の10年の間に3回以上窃盗罪による懲役6月以上の刑を受けてため、常習性が認められ、常習累犯窃盗として懲役3年が言い渡された例
クレプトマニア(万引き依存症、窃盗癖)の弁護について
先程述べたような繰り返し万引きをしてしまうクレプトマニアの場合には、窃盗行為がストレスのはけ口となっていたり、窃盗行為自体が快感となる等し、犯行時では自分の意思のみでは止められなくなったりしてしまっている場合があるため、専門の病院への通院や同じ境遇の方とディスカッションをするグループミーティング等への通所等により、そのような万引き状態(スリップ)を招かないための様々な環境を構築することが重要となります。
行為者本人は、万引きが犯罪であるということは十分に理解しています。家族にどれだけ迷惑をかけているかということも理解しています。それにもかかわらず、クレプトマニアの患者は、その病性の顕現により、行動制御能力を一時的に相当程度減退させ、犯行に及ぶのです。万引きに及ぶまさにその瞬間に「万引きしてはならない」という反対動機が歯止めとはならないで、罪を犯してしまうのです。
クレプトマニアには刑罰よりも支援を
万引きを繰り返す高齢者などに対しては、漫然と実刑を繰り返すのではなく、福祉的支援との連携を図りつつ、起訴猶予や執行猶予にすることが大切です。刑務所という施設の中での処遇では改善更生は見込めないのです。
検察庁でも近時、こうした高齢者や知的障碍者等を起訴猶予にしたうえで、福祉的支援機関と連携した処遇の試みを行っています。いわゆる「入口支援」というものです。社会的措置に一定の期待が持てる限り、実刑にこだわる理由はないでしょう。検察庁の入口支援に関する記事はこちらをご覧ください。
当事務所では、クレプトマニア(窃盗癖)との診断を受けた方、又は受ける可能性のある方の刑事弁護も多数行っており、状況に応じ、受任後の医療機関の案内や付添い等の通院支援、診断書の取得手続のサポート等柔軟な弁護活動をいたしております。クレプトマニア専門クリニックとの提携もしており、司法支援プログラムの策定などにもかかわっています。
当事務所のクレプトマニアに関する解決実績は、以下をご覧ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。万引き事件は、事件の内容、示談の成否、前科前歴の内容等に応じて、その後の刑事手続の流れや処分の内容に様々なパターンのあり得る複雑な犯罪です。また、単に示談するだけでなく、真の再犯防止のためには、専門病院への通院などによる継続的な治療が必要な場合もあります。
「少しでも今の状態を改善したい」と思うその思いが、犯罪を二度と犯さない新たな自分や新たな家庭を構築するための重要な原動力となります。
今すぐ無料相談のお電話を
当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
- 逮捕されるのだろうか
- いつ逮捕されるのだろうか
- 何日間拘束されるのだろうか
- 会社を解雇されるのだろうか
- 国家資格は剥奪されるのだろうか
- 実名報道されるのだろうか
- 家族には知られるのだろうか
- 何年くらいの刑になるのだろうか
- 不起訴にはならないのだろうか
- 前科はついてしまうのだろうか
上記のような悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。