近年、カメラ付き携帯電話やスマートフォンが急速に普及し、誰もが気軽にSNSを利用するようになりました。そのため、親密な個人間で撮影された性的な画像や動画を、関係の解消後に嫌がらせ等の目的でインターネットに流出させる、いわゆるリベンジポルノが増加しています。性的な画像や動画が一度流出すれば、拡散されたデータを削除するのは容易ではなく、撮影対象者の名誉やプライバシーが著しく害されることになります。
19世紀のドイツの偉大な刑法学者フランツ・フォン・リストは、中止犯論に関して「後戻りするための黄金の橋」という有名な言葉を残しました。中止犯規定は後戻りのための橋だというのです。これは犯罪行為の実行の着手があった場合の話であって、リベンジポルノのようなSNS犯罪はクリックやタップしてしまえば即既遂になってしまうので、中止犯成立の余地はなく、黄金の橋の出る幕はありません。
特に、SNS犯罪は、かつて対面でのみ犯罪行為を行えた時代とは異なり、非対面、匿名で犯罪行為を敢行するので、「やってはいけない」という反対動機形成も難しく、いわば犯罪行為を行うことのハードルは、かつての強盗や強姦などより低いのです。
そのような時代にあって、弁護士に何ができるでしょうか。それは、過ちを犯した人に対して、反省悔悟、贖罪の気持ちを持ってもらい、正しく純粋に生きていたころのその人に戻ってもらうことです。いわば弁護士自身が「後戻りのための黄金の橋」となることなのです。こうしたリベンジポルノは、どのような法律によって、どのように規制されているのか、代表弁護士・中村勉が解説します。
リベンジポルノ防止法とは
平成25年10月に発生した三鷹ストーカー殺人事件では、被害者を殺害した元交際相手が、被害者の性的な画像や動画をインターネット上にアップロードし、広く拡散することとなりました。
この事件を契機として、リベンジポルノが社会問題として広く認識されるようになり、平成26年11月、臨時国会において「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」(リベンジポルノ防止法)が成立し、同年のうちに施行されました。
この法律の目的は、私事性的画像記録の提供等により私生活の平穏を害する行為を処罰することや、私事性的画像記録に係る情報の流通によって名誉又は私生活の平穏の侵害があった場合におけるプロパイダ責任制限法の特例及び当該提供による被害者に対する支援体制の整備等について定めることにより、個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生またはその拡大を防止することとされています(1条)。
リベンジポルノに該当する行為
では、具体的にどういった行為がリベンジポルノに該当するのでしょうか。
規制の対象とする「私事性的画像記録」及び「私事性的画像記録物」について、リベンジポルノ防止法は、次のように定義しています。
リベンジポルノ防止法 第2条1項
この法律において「私事性的画像記録」とは、次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(次条第1項において「第三者」という。)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。次項において同じ。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。同項において同じ。)その他の記録をいう。1. 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
2. 他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下この号及び次号において同じ。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
3. 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものリベンジポルノ防止法 第2条2項
この法律において「私事性的画像記録物」とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、前項各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像を記録したものをいう。
リベンジポルノ防止法は、下線部のとおり、2条1項本文において、撮影対象者が、第三者が閲覧することを認識した上で任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものは、規制の対象となる私事性的画像記録から除外されることを定めています。
そのため、第三者に見せない約束で交際相手が撮影した画像や、交際相手だけに見せる約束で自撮りして送信した画像は規制の対象となる一方で、アダルトビデオやグラビア写真のように、広く公開されることを前提として画像や動画が撮影された場合は、私事性的画像記録には当たりません。
規制の対象となる画像や動画の内容については、法2条1項1~3号が具体的に定めています。性交や性交類似行為(口腔性交など)、他人の性器を触る行為、衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位が露出され又は強調されているものが該当し得るとされています。
罰則について
リベンジポルノ防止法は、上記のように規制の対象としている画像や動画を公表する行為について、次のように罰則を定めています。
(私事性的画像記録提供等)
第3条1項 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第3条2項 前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。
リベンジポルノ防止法3条1項は、第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処するとしています。また、上記の方法で、「私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も同様」とされています(同条2項)。
注意すべきなのは、「第三者が撮影対象者を特定することができる方法」でなければ罰則の対象にならないということです。つまり、撮影対象者の顔や背景として写っている物など、画像自体から撮影対象者を特定できる場合のほか、画像の公表の際に添えられた文言や掲載された場所などから特定できる場合は罰則の対象となりますが、撮影対象者の特定が不可能な場合には、プライバシー侵害の度合いが小さいとして、刑事罰の対象にはなりません。もっとも、広く一般人にとって特定可能である必要はなく、第三者のうちの誰か、例えば撮影対象者の配偶者や友人などが撮影対象者を特定することができれば足りるとされています。
リベンジポルノ防止法 第3条3項
前二項の行為をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、又は私事性的画像記録物を提供した者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
この規定は、私事性的画像記録(物)を公表させる目的で特定の人に提供する行為は、それ自体が撮影対象者の性的プライバシーを一定程度侵害する行為であるうえ、提供を受けた者が現実に公表行為を行うことにより、撮影対象者の性的プライバシーに重大かつ回復困難な被害を生じさせる高度の危険性が生じることから罰則を設けるものです。
リベンジポルノ防止法3条1項及び2項の公表行為をさせる目的でなければ、罰則の対象とはなりません。したがって、嫌がらせのために、元恋人の性的画像を同人の配偶者にメールで送信する場合のように、公表させる目的以外で、特定かつ少数の者に対して私事性的画像記録を提供した場合には上記の罪には該当しません。
リベンジポルノ防止法違反以外の罪にあたる場合
私事性的画像記録(物)を提供、陳列する行為により、撮影対象者の名誉を棄損した場合には、上記の法3条1項または2項の公表罪に加えて、名誉棄損罪(刑法230条1項)が成立します。また、当該行為が、わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した場合に該当するときには、わいせつ物頒布罪(刑法175条1項)が成立します。
刑法230条1項(名誉棄損罪)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損(きそん)した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
刑法175条1項(わいせつ物頒布罪)
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
リベンジポルノ防止法違反で逮捕されたら
逮捕されると、48時間以内に検察庁に送致されます。検察官が裁判所に勾留を請求すると、24時間以内に裁判官の勾留質問を受け、裁判官が勾留の可否を決定します。勾留が決定すると、最大で20日間、留置施設で身柄を拘束されることになります。検察官は、勾留期間までに、被疑者を起訴するか、不起訴にするかを決めなければいけません。もし起訴・不起訴の決定ができない時は、勾留期間までに被疑者を釈放することになっています。
不起訴処分を獲得するために、被害者、つまり私事性的画像の撮影対象者と示談をするという方法が考えられます。弁護人が選任されている場合、弁護人が被害者に接触をして示談交渉を試みることができます。示談が成立し、被害者が被疑者の刑事処罰を望まないということになると、起訴猶予を理由とする不起訴処分の可能性が高まることになります。リベンジポルノ防止法の定める罪は親告罪(同法3条4項)ですから、示談をして被害者が告訴を取り下げることで、起訴を避けることができます。
また、リベンジポルノ防止法違反で逮捕された場合に、そもそも身に覚えがないなど、罪の成立に争いがある場合もあります。その場合には、弁護人から検察官に対して、犯罪が成立しないことを主張する意見書を提出するなどして、嫌疑不十分を理由とする不起訴処分を狙うということもあり得ます。
更に、どのような方針を取るにせよ、警察官や検察官による取調べの対応も検討する必要があります。取調べでは、被疑者の言い分をまとめた供述調書という書面が作成され、取調官から被疑者の署名・押印が求められます。取調官の求めに応じて供述調書に署名押印をするのか、しないのか、そもそも取調官の質問に答えずに黙秘をするのか、適切な対応を決定する必要があります。そのためには、刑事弁護を専門的に扱う弁護士の適格な助言が必要不可欠です。
まとめ
リベンジポルノ防止法では、これまで解説してきた罰則の規定に加え、私事性的画像記録(物)流通の被害を受けた撮影対象者が情報の送信防止措置を申し出た場合、緊急の対策が可能となるようにプロバイダー責任制限法の特例を設けたり(リベンジポルノ防止法4条)、支援体制の整備や(同法5条)教育・啓蒙活動の充実(同法5条)についても定めています。
性的な動画や画像が拡散されてしまえば、被害者が被るプライバシー侵害は計り知れないものがあります。
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当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
- 逮捕されるのだろうか
- いつ逮捕されるのだろうか
- 何日間拘束されるのだろうか
- 会社を解雇されるのだろうか
- 国家資格は剥奪されるのだろうか
- 実名報道されるのだろうか
- 家族には知られるのだろうか
- 何年くらいの刑になるのだろうか
- 不起訴にはならないのだろうか
- 前科はついてしまうのだろうか
いかなる理由があれ、リベンジポルノは許されるものではありませんが、万が一リベンジポルノ防止法違反で、警察から捜査を受けたり家族が逮捕された場合には、速やかに弁護士にご相談ください。