この記事にアクセスいただいた方の中には、メンズエステでわいせつな行為をしてしまい、警察沙汰になってしまった方や、何らかのトラブルをかかえてしまった方がいらっしゃるかもしれません。中には、自分は事件を起こすようなつもりはなかったのに事件になってしまった、という方もいらっしゃるかもしれません。
仮にトラブルでとどまっている場合であっても、対応がうまくいかなかったり、相手方との交渉をきっかけにさらなるトラブルとなったりすることがあります。そのような場合、将来的に刑事事件に発展する可能性もあります。
例えば被害届が出され、いったん刑事事件になってしまうと、場合によっては警察に逮捕される可能性もあります。逮捕されなかった場合でも、刑事手続は進んでいくわけですから、警察からの呼び出しに備えて、取調べに対してどのように臨むべきか準備を行う必要があります。
この記事では、メンズエステでトラブルになってしまった場合の対応や、警察沙汰になってしまった場合の刑事手続の流れ、刑事手続となった場合に不起訴を目指すためにどのような弁護活動ができるのかを、弁護士・高田早紀が解説します。
メンズエステでのトラブル
メンズエステというと、皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。多くの方は、女性施術スタッフによる、男性向けのオイルマッサージ等を行う店舗をイメージされているのではないでしょうか。中には、最近広告の増えてきた男性向けひげ脱毛等の脱毛・美容サロンをイメージされた方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、男性向けマッサージサロンとしてのメンズエステでのトラブルを取り上げていきます。
メンズエステにおけるトラブルで多いのは、施術スタッフに対するわいせつ行為に関するトラブルです。メンズエステ店は、風俗店ではないため、基本的に性的サービスは行われません。性的サービスは、本来、利用目的として想定されていないのです。このようなメンズエステを利用する際、店舗による規則の範囲内で利用していれば問題となることは稀です。しかし、わいせつな行為を要求したり、施術スタッフの同意を得ないまま施術スタッフに触れたりなどという利用時の行為態様によっては、施術スタッフや店側が警察へ相談したり、被害届を出したりすることによって、刑事事件に発展する可能性もあります。
メンズエステ店にてこのような違反行為を行った場合、店や施術スタッフの側から、何らかの賠償を求められる可能性があります。
メンズエステでわいせつ行為をした場合に成立しうる犯罪
メンズエステ店を利用している間に気持ちが抑えられなくなってしまい、施術スタッフに対しわいせつな行為を行った場合、どのような犯罪が成立しうるのでしょうか。
(1)不同意わいせつ(旧強制わいせつ)
強引に胸や陰部を触ったり、相手に無理矢理に自己の性器を触らせるなどした場合には、不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。不同意わいせつ罪は、以下のように規定されています。
刑法第176条1項
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
不同意わいせつ罪にあたる行為の場合は、起訴されてしまえば「6月以上10年以下の拘禁刑」と規定されています。また罰金刑の規定はありません。罰金刑の規定がある犯罪の場合は、起訴された場合であっても「略式手続」といって、裁判は開かれずに書類のやりとりのみで罰金を払えば終わる手続もあります。
しかし、罰金刑の規定がない犯罪の場合、起訴されると公開の法廷による裁判が開かれ、有罪の場合には拘禁刑となります。それを避けるためにも、不起訴処分獲得に向けて活動していく必要があります。
(2)不同意性交等罪(旧強制性交等)
相手の同意を得ることのないまま、無理矢理に性交渉に及んでしまった場合には、不同意性交等罪が成立する可能性があります。不同意性交等罪は、以下のように規定されています。
刑法第177条1項
前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
この規定から分かるように、いわゆるセックスだけでなく。男性器を咥えさせるような行為であっても、「性交等」に含まれます。
不同意性交等罪にあたる行為の場合、刑法には「5年以上の有期拘禁刑」と規定されています。執行猶予付きの判決は拘禁3年以下の判決にしか付けることができませんから、不同意性交等罪は、起訴されると長期間刑務所に入らなければならない可能性が高い重大犯罪です。
しかし、弁護活動の結果次第で、裁判になることを避けることのできる可能性があります。このため、特に、起訴を避け、不起訴処分を獲得するための活動が重要となります。
(3)その他
直接にわいせつな行為をおこなうものではなくとも、メンズエステを利用する際に、鞄にカメラを仕込んだり、携帯のカメラを起動させておくなどし、施術スタッフに対する盗撮行為を行った場合は、撮影罪や都道府県ごとに規定する迷惑防止条例違反に該当する可能性もあります。実際に撮影していなくても、撮影機器を設置するだけでも処罰対象になります。
また、わいせつな行為をしていなくとも、言動内容によっては、強要(未遂)罪が成立する可能性もあります。
メンズエステのわいせつ事件での起訴率、不起訴率
上記、(1)不同意性交等罪、(2)不同意わいせつ罪を起こしてしまった場合の起訴率、不起訴率を、具体的な数値で見ていきましょう。
(1)不同意性交等罪(旧強姦罪・強制性交等罪)
2022年検察統計における「罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」によると、強制性交等、強姦(現:不同意性交等)罪の場合、1700件のうち、約3割の491件が起訴され、公判請求されています。罰金刑の定めはなく、起訴されると必ず公判請求となります。また、不起訴になった577件のうち、不起訴理由の内訳を見てみると、167件が起訴猶予、402件が嫌疑不十分、1件が嫌疑なしとなっています。
(2)不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)
同様に、2022年検察統計における「罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」によると、強制わいせつ(現:不同意わいせつ)罪の場合、4,223件のうち、約3割の1,251件が起訴され、公判請求されています。不同意わいせつ罪においても、罰金刑の定めはなく、起訴されると必ず公判請求となります。また、不起訴になった2,568件のうち、不起訴理由の内訳を見てみると、247件が起訴猶予、723件が嫌疑不十分、1件が嫌疑なしとなっています。
上記(1)不同意性交等罪、(2)不同意わいせつ罪の統計数値は、メンズエステを利用した事例に限ったものではありません。
しかし、これらの数値は、メンズエステを利用し、警察沙汰となってしまった場合の起訴率を考えるにあたって、一つの資料として参考にすることができます。
メンズエステのわいせつ事件で逮捕される可能性
メンズエステでのわいせつ事件の場合、施術スタッフが110番通報してそのまま警察に逮捕される「現行犯逮捕」、施術スタッフがメンズエステ店舗に相談し、事後的に警察に通報し、警察による捜査が進められた後に逮捕される「通常逮捕」などが考えられます。
メンズエステを利用する際は、利用の前提として、利用規約承諾書や誓約書に署名し、場合によっては連絡先の記入をしていることと思います。メンズエステ店舗が捜査機関に協力し、これらに記載した情報を提供することとなれば、犯人の特定が容易に進むことになります。また、わいせつ行為について店舗から何らかの連絡があった場合、これを放置すると警察沙汰になる可能性が高まると考えられます。
不同意わいせつ罪、不同意性交等罪など、メンズエステでのわいせつ行為によって逮捕された場合には、まず、警察から弁解録取手続(刑事訴訟法203条1項)や取調べを受けることになります。そして、逮捕者の身柄は、逮捕後48時間以内に警察署から検察庁に送致されます。検察官が、引き続き身体拘束をする必要があると判断した場合には、検察庁に送致されたときから24時間以内に、裁判所に対して勾留請求がされます。この間の最大72時間の間は、基本的には家族であっても面会することはできませんが、弁護士であれば面会することができます。
その後、裁判所によって検察官の勾留請求が認められ、勾留決定がなされると、最長20日間にわたる勾留がなされます。最長20日間も身体拘束を受けることになれば、学校や会社に行けなくなるなど、日常的な不利益が大きく、その後の生活にも大きな影響を与えます。
弁護士に依頼することで、家族などの身元引受人を用意したり、釈放後の生活環境を調整するなど、早期の釈放を目指した弁護活動を行うことができます。
仮に、ご家族が逮捕されてしまった場合には、なるべく早い段階で弁護士に相談してください。逮捕されてから勾留決定がされるまでには、最大でも72時間しかありません。この中で、身体拘束からの解放を目指すためには、迅速な弁護活動が要求されます。また、残念ながら勾留決定がされてしまった場合でも、被害者との間で示談を成立させることで、勾留満期前の釈放を目指した弁護活動をすることができます。
メンズエステでのわいせつ事件における弁護活動
メンズエステでわいせつ行為を行ってしまった場合、まずは、不起訴処分を目指すことが大切です。
不同意性交等罪、不同意わいせつ罪で起訴されてしまえば、公開の法廷での裁判が行われ、前科がついてしまいます。誰しも前科はつけたくないものです。また、前科がつくことで、法律上就業を制限されたり、国家資格を失ったりすることもあります。このように、起訴されてしまうことによって、日常生活に様々な不利益が生じます。このような不利益を避けるためには、不起訴を目指した活動をすることが必要になります。
メンズエステでわいせつ行為を行ってしまった場合は、まずは弁護士にご相談ください。弁護士であれば、本人から直接事件の詳細を伺ったうえで、今後の見通しや考えられる弁護活動について、具体的なアドバイスを行うことができます。
以下では、一般的な弁護活動をご紹介します。
(1)示談
わいせつ行為は、被害者のいる犯罪です。被害者がいる事件では、被害者の被害感情が、検察官が起訴・不起訴の判断をするにあたっての大きな考慮要素なります。
このため、第一に、被害者との間で示談交渉をすることが大切です。示談交渉の際、被害者は、加害者である犯人との間で直接やりとりをすることに対し、恐怖心を感じたり、自分の情報を知られることに対して抵抗を感じたりすることが多く、当事者同士で示談交渉をすることは困難です。このため、第三者かつ法律の専門家である弁護士が間に入り、被害者に配慮しつつ示談交渉をすることが大切です。被害者のみではなく、店舗との間でも示談交渉をすることが考えられます。
わいせつ行為を行いトラブルになったものの刑事事件になっていない場合では、早期の段階で示談をすることができれば、被害届を出されることなく解決させることができる可能性もあります。
(2)冤罪
メンズエステは、区切られた空間や密室で行われるものです。このような状況では、当事者の証言が大きな価値を持つ証拠となります。自分は一切わいせつな行為を行っていないにもかかわらず、警察沙汰になってしまった、トラブルになってしまった等の冤罪の場合は、早期に弁護士に相談することが大切です。
自分はわいせつな行為をしていないとの主張をしているつもりであっても、警察・検察からの取調べの中で、事実を認めているかのような調書が作成されてしまうことがあるからです。
基本的には、一度作成されてしまった調書の内容を後から変更したり、取り消したりすることはできません。自身に不利な内容の調書が作成されてしまうことで、起訴される可能性が高まる危険もありますし、仮に起訴されてしまった場合に、裁判で無罪を争う際の妨げになる危険性もあります。
したがって、事実を争う場合には、事前に弁護士と十分な打合せをしたうえで取調べに臨み、不起訴を目指した活動をする必要があります。
まとめ
メンズエステでのわいせつ事件で被害者や店舗から連絡があった方、警察から呼び出しがあった方、ご家族がわいせつ事件を起こして逮捕されてしまった方は、私たち弁護士に是非ご相談ください。
わいせつ事件について経験豊富な弁護士に相談することで、警察沙汰になる前の紛争解決を目指したり、逮捕の回避や身体拘束からの解放を目指したり、前科がつくのを避ける活動をすることができ、事件の早期解決を目指すことができます。