皆さんは、テレビのニュース番組で、必要もないのに高額で住宅リフォーム工事をさせた事案や、強引な訪問販売により高価な布団を売りつけた事案を見たことがあるでしょうか。このような行為は、いずれも、特定商取引法に違反する行為です。
この記事では、特定商取引法とはどのような法律か、特定商取引法に違反する行為を行ってしまった場合の弁護活動について弁護士・中村勉が解説します。
特定商取引法とは
特定商取引法とは、「特定商取引に関する法律」を指します。
特定商取引法は、事業者と購入者(消費者)との間でトラブルを生じやすい訪問販売、通信販売等の取引形態を対象として、購入者の保護を図り、これにより取引の適性を図り、経済の健全な発展に寄与することを目的として制定されました。この法律は、進化する悪質商法に対する対策強化や、社会経済情勢の変化に対応するために、何度も改正されています。
特定商取引法第1条には、特定商取引法の目的について「特定商取引(訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引をいう。以下同じ。)を公正にし、及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もつて国民経済の健全な発展に寄与すること」と規定されています。
特定商取引法に違反する行為
特定商取引法に違反する行為とは、どのような行為を指すのでしょうか。
特定商取引法で規制されているのは、例えば、以下のような行為です。
不実の告知禁止違反(6条第1項各号等)
訪問販売において、契約の締結の前提となる事実について、例えば、実際には瓦ははがれておらず修理の必要もないのに、「家の屋根の瓦の一部がはがれており、放っておくと雨漏りしてしまう」などといい、必要のない修理をさせる等、事実と異なる説明をして顧客の適正な判断を害したり、消費者の意思決定をゆがめたりするような行為は、不実の告知禁止違反になります。
この場合、特定商取引法第70条1号により、「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」になります。また、法人に対しても、74条1項2号により1億円以下の罰金が科されます。
書面交付義務違反(5条1項等)
訪問販売において、売買契約を締結し、商品の引き渡しと代金の支払いを受けたにも関わらず、購入者に対して法令に定める一定の事項を記載した書面を交付しなかった場合、書面交付義務違反となります。
この場合、特定商取引法第71条1号により、「6月以下の懲役又は100万円以下の罰金」になります。また、法人に対しても、74条1項3号により罰金が科されます。
誇大広告等の禁止違反(12条)
通信販売における商品の広告において、当該商品の商標や製造者名などについて、著しく事実に相違する表示や実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をした場合、誇大広告等の禁止義務違反となります。
この場合、特定商取引法72条1項1号により、「100万円以下の罰金」になります。また、法人に対しても、74条1項3号により罰金が科されます。
特定商取引法に関する相談窓口
このような特定商取引法違反が疑われる行為に関する窓口として、消費者庁は、全国の消費生活センター等の事案に応じた適切な消費生活窓口を案内する「消費者ホットライン(188番)」を設置しています。
また、インターネット上において、「特定商取引ガイド」も開設されています。これにより、情報の公開や収集を行っています。
訪問販売において虚偽の説明を受けた場合や、契約書の交付を受けなかったなど、ご自身も特定商取引法違反の被害にあったのではないかと思われている方は、一度、窓口への相談を検討されてはいかがでしょうか。
特定商取引法違反の疑いをかけられたら弁護士へ相談を
特定商取引法に違反している場合、多くは、消費者が警察に通報・相談をすることで、特定商取引法違反としての捜査が始まります。
消費者が被害に気付くのは、特定商取引法に違反する行為が行われてから時間が経ってからであることが多く、通報を受けた捜査機関の捜査が進み、犯行から時間が経ってから逮捕されることもあります。
捜査が始まると、悪質な場合であれば直ちに逮捕される可能性もありますが、まずは取調べに呼ばれ、当事者の当時の認識や事実関係を聞かれるなど、最初は在宅事件として捜査を進めることもあります。
特定商取引法に違反する場合は、関係者や被害者が多くいることが考えられます。例えば、特定商取引法違反の場合、事業として同様の行為を繰り返していると考えられることから、被害者である消費者は、一人ではなく複数人いるケースが多いです。また、捜査機関の介入を受けている件と同様の手法で、別の商品の取引も繰り返していた場合であれば、余罪が考えられることもあります。
このため、捜査機関は十分な時間をかけて捜査を行い、逮捕に至るまでの証拠を得て、逮捕・勾留といった身体拘束をする可能性があるのです。在宅事件として捜査が進んでいるから、逮捕などの身体拘束がないとは言い切れません。
特定商取引法違反の疑いをかけられたら
特定商取引法に違反するとの疑いをかけられてしまったら、まずは弁護士に相談することが大切です。起訴するか不起訴とするかの判断をするのは検察官です。取引行為に関する当時の認識や事実関係を聞かれ、これについて捜査機関により供述調書が作られると、検事はこれを起訴するか不起訴にするかの重要な判断要素とします。
基本的には、一度作成されてしまった調書の内容を取り消すことはできません。不利な内容の調書が作成されてしまうことで、起訴される可能性が高まる危険もありますし、仮に起訴されてしまった場合には、裁判でこちらの主張に対するマイナスの影響を与える可能性もあります。したがって、不起訴を目指すための活動として、事前に弁護士と十分な打合せをしたうえで取調べに臨む必要があります。
特定商取引法違反の統計
2020年検察統計における「罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」によると、特定商取引に関する法律に違反した場合、総数427件のうち、約3割の153件が起訴されています。起訴されたうち47件が公判請求され、106件が略式命令請求されています。
また、不起訴になった総数155件のうち、不起訴理由の内訳を見てみると、133件が起訴猶予、20件が嫌疑不十分、0件が嫌疑なしとなっています。この数値について、例えば訪問販売や電話勧誘販売といった、それぞれの類型による処分内容としては公表されていませんが、数値として参考にすることができます。
「警察白書」の特定商取引事犯の類型別検挙件数(令和2年)によると、全体としての検挙事件数は132件で、被害人員は1万5,447人、被害額等は219億1,214万円です。検挙件数のうち、訪問販売が124件、電話勧誘販売が1件、連鎖販売取引は0件、訪問購入が5件、その他が2件となっています。この数字から、特定商取引法違反の事件のうちほとんどが訪問販売によるものであることがわかります。
そして、このような特定商取引法に違反する行為は、事実とは異なる虚偽の説明を伴うこともあります。虚偽の説明により相手をだまして、本来であれば不要な契約をさせたとして、詐欺罪(刑法246条)に問われることもあります。
特定商取引法に違反した場合に考えられる弁護活動
特定商取引法に違反する行為の場合、当該行為によって被害者の財産に損害を与えているため、検察官が起訴するか不起訴をするかの判断をするにあたっては、被害弁償をしているかどうか、示談が成立しているかどうかが重要視されます。このため、特定商取引法に違反してしまった場合の弁護活動のメインとしては、被害者の方との示談交渉が考えられます。
被害者の方は、既に一度犯人との交渉で損害を受けているわけですから、犯人に対する疑いの気持ちや嫌悪感から、犯人との間で示談交渉をすることに対し強い抵抗を感じることがほとんどです。直接の交渉に至った場合でも、交渉過程で新たなトラブルを生むこともあります。そこで、示談交渉を行うためには、第三者かつ専門家である弁護士の存在が必要となります。弁護士が間に入ることで、弁護士が被害者の感情に配慮しつつ示談交渉を進めることができます。
警察は介入していないものの、消費者から直接問い合わせを受け、トラブルに発展している方もいらっしゃると思います。そのような場合も、早期の段階で示談をすることができれば、被害届を出される前に事案を解決させることができ、その後の逮捕や捜査機関の介入も避けることができます。
まとめ
特定商取引法に違反する行為であるとして消費者から連絡があった方、警察から呼び出しがあった方、ご家族が特定商取引法違反により逮捕されてしまった方は、私たち弁護士にご相談ください。
経験豊富な弁護士に相談することで、警察が関与する前の紛争解決を目指したり、逮捕の回避や身体拘束からの解放を目指したり、前科を避ける活動をすることができ、事件の早期解決を目指すことができます。
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