無期懲役、という判決をニュースなどで目にしたことがある方は多いと思います。ネット上では、「無期懲役となっても結局釈放されるのだろう」などの情報も散見されます。今回は、無期懲役制度の概要や運用の実情などについて解説したいと思います。
無期懲役とは
無期懲役とは、「無期」すなわち期限の限定の無い懲役刑をいいます。期限の限定の無い懲役刑とは、原則として、被告人(受刑者)が死亡するまで懲役刑を科すという内容となります。法律では、刑法第12条に定められています。
(刑法)第十二条
懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
無期懲役になりうる罪名
無期懲役になりうる罪の例を以下列挙します。
殺人罪
人を殺した場合については、死刑の次に重い刑罰として無期懲役が規定されています。
(刑法)第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
強盗致死傷罪
強盗をした者が、人を殺したり、人を負傷させてしまった場合には、無期懲役刑が定められています(死亡の場合、死刑の次に重い刑罰として定められています)。
(刑法)第二百四十条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
強制わいせつ致死傷・強制性交等致死傷罪
一定の性犯罪をした者が、人を死傷させてしまった場合、無期懲役が定められています。
(刑法)第百八十一条 第百七十六条(強制わいせつ)、第百七十八条第一項(準強制わいせつ)若しくは第百七十九条第一項(監護者わいせつ)の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 第百七十七条(強制性交等)、第百七十八条第二項(準強制性交等)若しくは第百七十九条第二項(監護者性交等)の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。
身代金目的略取・誘拐・身代金要求罪
身代金を目的とした略取や誘拐、身代金の要求等にも、無期懲役が定められています。
(刑法)第二百二十五条の二 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。
現住建造物等放火
人が居住している建造物等を放火しは場合、無期懲役が定められています。本罪は、これまで列挙した罪と異なり、人の死傷や拐取等がなくとも本罪は成立します。
(刑法)第百八条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
その他にも以下の罪において無期懲役が規定されています。
現住建造物等浸害罪
第百十九条 出水させて、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車又は鉱坑を浸害した者は、死刑又は無期若しくは三年以上の懲役に処する。
汽車転覆等及び同致死罪
第百二十六条 現に人がいる汽車又は電車を転覆させ、又は破壊した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2 現に人がいる艦船を転覆させ、沈没させ、又は破壊した者も、前項と同様とする。
3 前二項の罪を犯し、よって人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処する。
往来危険による汽車転覆等の罪
第百二十七条 第百二十五条の罪を犯し、よって汽車若しくは電車を転覆させ、若しくは破壊し、又は艦船を転覆させ、沈没させ、若しくは破壊した者も、前条の例による。
外患援助罪
第八十二条 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する。
無期懲役と終身刑との違いとは
無期懲役とは、以上に見てきた通り、我が国の刑法に定められている正式な刑罰の一つです。これに対して、よく似た言葉として終身刑という言葉があります。
終身刑も、死ぬまで懲役となる罪である点は、我が国の無期懲役制度と同様といえます。アメリカ合衆国の一部の州や、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、ベルギー、中国などで規定されており、死刑制度のない国においては最高刑となります。我が国の無期懲役制度下では、後に述べるように、仮釈放制度が設けられています。
これに対して、終身刑には、相対的終身刑と絶対的終身刑があり、後者の絶対的終身刑とは仮釈放が認められない一生涯の懲役刑を言います。このような仮釈放の期待できない終身刑(絶対的終身刑)は我が国にはありません。
無期懲役と死刑を分ける基準とは
現在我が国では死刑制度があります。では、無期懲役と死刑とを分けるのはどのような基準なのでしょうか。この基準を定める明確な法律はありませんが、過去の判例に照らすと、下記のような諸要素を総合的に考慮していると考えられます。
被害者の人数
概して死亡した人数が1名の場合には死刑となる可能性は低くなり、2名以上の場合には死刑となる可能性が高まります。
犯行内容
犯行の計画性や残忍さ、非人道性などから、何ら落ち度のない被害者(ら)の生命と尊厳を踏みにじった行為であるような場合には、死刑となる可能性が高まります。
被告人の更生可能性
犯行の動機や経緯、被告人の境遇や生育環境、前科前歴の有無、犯行後の改悛の状況などに基づき被告人の更生可能性に乏しいと考えられる場合には死刑となる可能性が高まります。
無期懲役から仮釈放になるには
仮釈放が認められるための法律上の要件は、以下の2つです。
- 改悛の状があること
- 有期刑についてはその刑期の3分の1、無期刑については10年が経過したこと
もっとも、2005年以降、併合罪における有期懲役刑の上限が20年から30年に改定されたことを受けて、無期刑の仮釈放は、認められるとしても刑期30年を経過した後となるのが現状の運用となります。また、平成30年度の統計を見ると、無期懲役の受刑者は1,789人であるのに対し、新たに仮釈放された者は7人と、その割合はわずか0.04%と極めて少なく、刑務所の中で一生を終える者も多いというのが実情です(参考:無期懲役制度の運用について 法務省HP「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」)。
無期懲役判決の例
- 2020年9月、福岡県粕屋町で2019年に女性を殺害したなどとして殺人や死体遺棄等の罪に問われた被告人の裁判員裁判が行われ、福岡地裁は、求刑通り無期懲役の判決を言い渡しました。
- 2020年1月、走行中の東海道新幹線で2018年に乗客の男女3人を殺傷したとして殺人などの罪に問われた被告人につき、横浜地方裁判所小田原支部が求刑通り言い渡した無期懲役の判決が確定しました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。無期懲役で出所する人数は統計に照らすと極めて少なく、生涯を刑務所の中で過ごす者も多いことがお分かりいただけたかと思います。それほどに無期懲役という刑罰は重いものであり、無期懲役に処される被告人の刑事責任は極めて重大なものなのです。