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常習累犯窃盗の刑の重さ – 刑事事件に強い弁護士が解説

常習累犯窃盗とは、どのような法律なのでしょうか。耳なじみのない言葉ですが、窃盗を何度も繰り返してしまう場合に刑法の窃盗罪よりも重い処罰を与えるための法律が定められています。

本記事では、常習累犯窃盗の刑の重さや成立要件を弁護士が解説いたします。

常習累犯窃盗を刑事事件に強い弁護士が解説

常習累犯窃盗とは、「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」(盗犯等処罰に関する法律)第3条に定められた罪であり、「窃盗…の罪を行う習癖を有する者を、その習癖のない者より重く処罰するため、通常の窃盗その他の罪とは異なる新たな犯罪類型を定めたもの」(最高裁昭和44年6月5日決定)とされています。

常習累犯窃盗罪の成立要件

常習累犯窃盗罪が成立するためには、以下の要件が必要です(盗犯等処罰に関する法律第3条、第2条)。

(1) 窃盗罪(刑法第235条)又はその未遂罪(同法第243条)を犯したこと
(2) 上記犯罪を常習として犯したこと
(3) ①上記(1)の行為の前10年以内に、②窃盗(又は強盗、事後強盗若しくは昏酔強盗)又はこれらの罪と他の罪との併合罪につき、③3回以上6か月の懲役以上の刑の執行を受け又はその執行の免除を受けた者に刑を科すべきとき

上記の要件のうちここでいう「常習として」とは、反復して窃盗、強盗等を行う習癖のことです(大審院昭和7年8月6日判決)。
その判断に当たっては、行為者の前科・前歴、性格、素行、犯行の動機・手口・態様・回数等を総合的に検討する必要がありますが、判例上、前科・前歴その他当該行為以前の事実によることを要しないとされています。

常習賭博罪における常習性についてではありますが、大審院大正12年3月29日は、「賭博の常習者であることを認めるには、必ずしも当該賭博行為以前に賭博を累行した事実がなくてもよく、現に賭博行為を反覆累行した事実があればよい」旨判示しています。

常習累犯「強盗」等の罪について

上記(1)において、強盗(刑法第236条)、事後強盗(同法第238条)若しくは昏酔強盗(同法239条)又はその未遂罪を犯した者である場合は、常習累犯強盗等の罪となることがあります。

常習累犯窃盗罪の法定刑

3年以上の有期懲役です(盗犯等処罰に関する法律第2条)。上限は20年です(刑法第12条1項)。
ちなみに、常習累犯強盗等が成立する場合は、7年以上の有期懲役という極めて重い刑罰が定められています(同条)。

常習累犯窃盗の裁判

常習累犯窃盗は刑罰が重い

常習累犯窃盗罪は、上記のとおり3年以上(20年以下)の懲役刑であり、窃盗罪(刑法第235条)が(1か月以上)10年以下の懲役であることに比べ、(上記常習累犯強盗等ほどではないにせよ)相当な重罰となっています。

保釈されるか

そのため、公判請求された場合、必要的保釈(刑事訴訟法第89条)の対象とはならず、裁量的保釈(同法第90条)の対象となるだけであり、保釈が許可されるためのハードルが高くなります。

執行猶予付き判決を得ることができるか

また、裁判官が判決で懲役刑に執行猶予を付するには、言い渡す刑がそもそも3年以下である必要があります(刑法第25条1項)から、酌量減軽(同法第66条)がなされない限り法定刑の最下限(3年)の刑が相当である場合に限られることになり、やはり相当ハードルが高くなります。

さらに、執行猶予が付されるためには、①前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者②前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者(同法第25条1項)でなければなりません。

しかしながら、当該行為者は、そもそもこの常習累犯窃盗成立の要件に合致した人、つまり、10年以内に3回以上窃盗又はこれらの罪と他の罪との併合罪で6か月の懲役以上の刑の執行を受けるなどした人ですから、論理必然ではないにせよ、上記の執行猶予の要件にそもそも当てはまらず、執行猶予判決を狙おうにもそもそもその恩恵を受ける法律上の要件を欠く場合が多いと言えます。

累犯加重もあり得る

当該常習累犯窃盗行為が刑法第56条の再犯(累犯)の要件に当たる場合は、同法第57条の再犯(累犯)加重もなされます。
つまり、前に懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合などには、再犯とされ(同法第56条)、常習累犯窃盗罪について定められた懲役刑の長期(20年)が2倍になってしまいます(同法第57条)。
但し、同法第14条2項で上限は30年とされているので、再犯(累犯)加重後の当該常習累犯窃盗の処断刑は、1か月以上30年以下となります。

上記のとおり、常習累犯窃盗とされれば、相当な重罰が科されることを覚悟しなければなりません。

常習累犯窃盗の弁護のポイント

それでも諦めてはいけません。
常習累犯窃盗で逮捕等をされても、自分は犯人でないなどとして犯行を否認するのであれば、その根拠を的確に提示してその主張を裏付け、捜査当局や裁判所を説得し、無罪を狙う弁護活動をすべきです。

犯行を認めるか否かにかかわらず、前記のとおりいささか複雑な常習累犯窃盗の要件に本当に当てはまるのか(当局も、誤解することがないとも限りません)、殊に常習性という、諸般の事情によって決まる要件を本当に満たすのかにつき、刑事事件の専門的見地から精緻に検討する必要があります。

例えば、犯行を認める場合なら、窃盗罪を犯した場合と同様、被害者との示談、行為者に対する家族の監督、就職などによる今後窃盗を二度と起こさないための環境整備等の弁護活動により、酌量減軽や、要件が合うなら執行猶予付き判決を狙い、そうでなくてもできる限りの寛刑を目指すべきでしょう。

常習累犯窃盗とクレプトマニア

クレプトマニアとは

クレプトマニアとは、法律用語ではありませんが、「窃盗症」などと和訳され、「窃盗(万引き)を止めたくても、意思の力では止められない依存症であ」り(医療法人社団明善会榎本クリニックHP)、慢性の難治性精神疾患などとも説明されています。

クレプトマニアは、たとえ窃盗(万引き)で検挙され、刑事処罰を受けても、刑罰の威嚇力等だけでは窃盗(万引き)をやめることが出来ず、繰り返し検挙され、しまいには常習累犯窃盗の要件を満たすようになってしまいかねません。

クレプトマニアによる再犯を防止するためには

クレプトマニアは難治性の精神疾患とも言われており、クレプトマニアによる再犯を防止するためには、刑罰の威嚇力や家族による監督だけでは足りないことが多く、就業支援など場合によってはかえって有害な結果を生むこともあり得ます。早期に専門的医療機関を受診し、専門的治療を受け、医師の指導の下で更生の道を歩むことが必要です。

そして、専門的治療を受けて一定の効果が得られたことは、裁判等においても行為者に有利な事情として働きます。常習累犯窃盗で逮捕されても、保釈等による身柄解放後判決までの期間は、クレプトマニア治療の絶好のチャンスと言えます。
クレプトマニアが疑われた場合は、是非早期に専門的医療機関の門を叩いてください。

クレプトマニアと刑事責任能力

刑法第39条1項によれば「心神喪失者の行為は、罰しない」とされ、同条2項におれば「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」とされています。
心神喪失とは「精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力なく又はこの弁識に従って行動する能力のない状態」を指し、心神耗弱とはその能力が著しく減退した状態を指すとされており(大審院昭和6年12月3日判決)、クレプトマニアは、「理非善悪の弁識に従って行動する能力のない状態」、あるいは「その能力が著しく減退した状態」と言えないかが問題となります。

結論から言うと、クレプトマニアが心神喪失又は心神耗弱に当たるとした判決は少なく、完全責任能力を認めたものが多数と思われます。
窃盗罪の事例ではありますが、東京地裁は、令和2年4月3日、「被告人が重症の窃盗症にり患し、その影響により窃盗行為への衝動を抑える能力が著しく低下していた疑いがあり、行動制御能力が著しく減退していた合理的疑いが残るから、被告人は、本件犯行時、心神耗弱の状態にあった」として、行為者が窃盗症による心神耗弱状態にあったと認め、検察官の求刑が懲役1年6か月であったところ懲役4か月の判決を言い渡しました。

ただ、同判決は、検察官から控訴され、東京高裁において、「第一審の認定は論理則、経験則等に照らして不合理である」などとして事実誤認を理由に破棄されましたが、最高裁は、令和3年9月7日、「控訴審の認定は論理則、経験則等に照らして不合理であるとして、事実誤認を理由に破棄し、原審において何ら事実の取調べをすることなく、訴訟記録及び第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって、直ちに完全責任能力を認めて自判をした控訴審判決は違法(刑訴法400条但書違反)である」旨述べて、その件を東京高等裁判所に差し戻しました(結果として、原判決は破棄され、完全責任能力があるとして被告人は懲役10か月の判決となりました)。

上記のとおり、クレプトマニアにより心神喪失又は心神耗弱であると認定してもらうのには困難なハードルがありますが、責任能力が著しく減退していたという程度まで至らなくても責任能力が相当に減退していたとして、減刑ないし酌量減軽を得られる可能性はあります。

クレプトマニアと常習累犯窃盗にいう「常習性」

この点も、クレプトマニアであるからといって、常習累犯窃盗にいう「常習性」が否定された例は数少ないと思われます。

高知地裁は、平成31年1月24日、「窃取行為は、窃盗を反復累行する習癖の発現ではなく、窃盗症という精神疾患等による影響の下に敢行された」として、常習累犯窃盗の成立を否定し、窃盗の成立のみを認める判決を下しました(「被告人は本件各犯行当時、心神喪失の状態にも、心神耗弱の状態にもなかったと認められるものの、本件各窃盗は、被告人の人格的ないし性格的な傾向若しくは意思傾向、すなわち窃盗を反復累行する習癖が発現して敢行されたものというより、むしろ、窃盗症という精神疾患や、多動性障害等、矯正教育による矯正のみによっては改善のできない障害による影響の下に敢行されたものであり、本件各犯行においては、盗犯等防止法3条の常習性の要件を充足すると認めるには合理的な疑いが残るため、常習累犯窃盗罪は成立せず、それぞれ窃盗罪が成立するにとどまる」と判断し、被告人に対し、懲役4年の求刑に対し懲役1年2月を言い渡しました)。

同判決は、令和元年10月31日、高松高裁において、以下のとおり破棄され、懲役2年の実刑判決が言い渡されています(「本件各窃盗は、精神障害の影響を受けつつも被告人の本来の人格によって行われたものということができるから、原判決が指摘する事情《商品を詰め込んでバッグの外形が変形し、窃取した商品の一部がバッグの口から見えるほどになるまで多くの商品を窃取するなどの稚拙でいささか異常な態様》は、本件各窃盗が反復累行する被告人の習癖の発現によって行われたという前記の推認を左右する事情であるとはいえない。」)。
クレプトマニアだからといって直ちに常習性が否定されると考えるのは困難です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。常習累犯窃盗は、クレプトマニアだけでなく、スリ、仮睡盗、侵入盗、車上狙い、自販機狙い等の態様による職業的犯行の場合もあり、それぞれの場合で弁護活動の方針は大きく違ってきます。
様々な態様の事案に対応したことのある経験豊富な弁護士に早期に相談するのがよいでしょう。

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